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株式会社真浄葬祭

業種

生活関連サービス業,娯楽業

地域

九州・沖縄

従業員数

10〜29人

File.40

職場環境整備と人員増の好循環を実現 ―故人との「最期の旅行」を提供「真浄葬祭」の場合―

多様な休暇制度

2020.12.09

株式会社真浄葬祭

 福岡市中間市の葬儀会社「真浄葬祭」は1991年の設立以来、地域でのシェアを伸ばし続け、現在はフランチャイズ店舗を展開している。葬儀を故人との「最期の旅行」と捉え、遺族に寄り添ったサービスをして業績を拡大してきた。

 「人生という旅の終焉を穏やかで優しいものにする。この言葉を胸に、故人と家族がゆっくり過ごせる『人間味のある葬儀』を心がけている」と、葬儀に対する思いを語るのは、冷牟田真二社長だ。

 そんな同社だが、過去には人材がなかなか定着せず、主力社員が一気に退職することもあったという。「このままでは、新卒人材が入社してくれてもすぐに辞めてしまう」。そんな危機感が、同社が働き方改革を進めるきっかけになったというのだ。

主力社員の退職、新卒採用の本格化を受け改革を実行

葬儀に対する思いについて語る冷牟田真二社長

 設立当時はバブル末期とはいえ、日本は好景気に沸いていた。葬儀にも現在とは比較にならないほどの費用をかけて執り行うのが主流だった。

 「新参者が大手と戦うためには、明確な違いを打ち出さなければならない」

 そうした方針の下、バブル下にあえて「日本一の低価格」を掲げた。また、親族や親しい間柄にある人のみで行う「家族葬」に着目し、業界にイノベーションを起こしてきた。冷牟田社長は「少子高齢化も進んでいくなかで、葬儀に求められるものも変わってくるだろうと考えていた」と当時を振り返る。

 こだわりは価格だけではない。故人とゆっくり別れの時間を過ごしてもらおうと、全てのプランで斎場は完全に貸し切りにした。「サービスの品質は一定でなければならない」と、司会や遺影、供花などは外注せず、七つの部署でほぼ全てのサービスを内製化。徹底的に遺族に寄り添う姿勢を示した結果、顧客アンケートでは「スタッフが優しかった」が同社を選んだ理由で最多となった。

供花など、葬儀に関するほぼ全てのサービスを内製化している

 故人や遺族のケアを行うという繊細な業務は、長年の経験がものをいうため、業界的に「職人気質」が求められる。同社のきめの細やかなサービスは、そうした基盤があって成り立っていたが、現場では、社員を体力的にも精神的にも疲弊させていった。その結果、人材定着という点で課題を抱え続け、ついには約5年前に主力だった社員4人が同時期に退職してしまった。「当時の社員は13~14人。かなりしんどかった」と冷牟田社長は振り返る。

 一方で、事業拡大も考えており、新卒の採用を本格化させていく予定もあった。同時期の大量退職と新卒採用の本格化、これらをきっかけに、同社は働き方改革に取り組み始めたのだ。

働き方改革を「宣言」

 なぜ、人材が定着しないのか。冷牟田社長は「仕事について1から10まで指示していた。『やらされている仕事』となった結果、仕事を自分事にできず、自らの成長につながると思えないのでは」と分析した。社員自らが考え、率先して動いてほしい。そのためには、仕事を自分事化してもらうための取り組みが必要だ。そう考え、ガイドラインを作成し全社員に共有した。

 「なぜ報告・連絡・相談は大切なのか。自己アピールの場だから」「年次有給休暇取得は権利」「社員旅行は本物のサービスを体験する場」――。

 ガイドラインでは、同社で働くうえでの心構えや考え方を示した。働き方改革に取り組んでいくことへの「決意文」「宣言」ともいえるものである。ここから働き方改革関連の制度を一気に整備していった。

 一見当たり前と思える報告・連絡・相談の重要性についても理由と共に説明することで、より社員の意識を高めることができた。それは出勤時間の柔軟性にもつながり、始業時間に出勤できなくても、連絡をすれば認めることとした。「職場は女性の比率が高く、子どもがいる社員も多い。子どもが朝からぐずることだってある。チームで働く以上、連絡さえしてくれればOKということ」と冷牟田社長は説明する。社員旅行についてはアトラクション費用を会社負担とすることで、本物のサービスを学ぶ場所と意義づけた。冷牟田社長は「社員旅行は親睦を深める場であるとともに、仕事に生かすための見聞を広める場でもある」と強調する。

5歳の長男の母親でもある前田美咲さん

 「子どもがぐずって遅れる場合でも『大変だね』『がんばれ』という温かい言葉をもらえる」と話すのは、遺影の作成やチラシの構成を担う制作部の前田美咲さんだ。前田さんは新卒採用で入社後、結婚を機に退職。その後、長男を出産し、退職から約2年後に復帰した。

 「相談しやすい先輩がいたこともあり、復帰を決めた」と話す。職場の雰囲気については「年休が取りやすく、出勤時間の自由も効く」と笑顔で説明する。同部には今年、新入社員が入社。「自分のスキルを人に教えられる段階まで上げて、良い見本になっていきたい」と意気込んでいる。

昨年、社員旅行で沖縄に行った際、シュノーケリングに挑戦した前田さん(左)。同社は社員旅行を「本物のサービスを体験する場」と考えている

採用に成功して社員個人の負担が分散

 前田さんの言葉の通り、先輩への相談のしやすさ、休暇の取りやすさは、今では同社の特徴の一つとなった。

 同社では若手の育成をバックアップしようと、「育成残業」という残業時間を設けている。後輩社員の申し出のもと、先輩社員が承諾し、最終的には社長が承認する。「若い社員からすると勤務時間中の先輩は忙しく、相談しにくい」(冷牟田社長)と考え、後輩の指導のための時間を「育成残業」と定義付けることで相談しやすい雰囲気を作り出した。実際にこの制度の活用により、若手社員のスキルアップにつながっている。

 スキルアップした社員には昇給の形で応えており、「通夜、葬儀の式進行」ができるようになれば月給1万5000円、「バスなどの大、中型送迎者の運転」のための免許取得で1万円アップするなど、就業規則で細かく規定し、スキルアップの成果について見える化をした。

 また、休暇の管理についても徹底している。勤務はシフト制になっており、社屋棟に貼り出されているシフト管理表に「残りの年次有給休暇日数」について記載することで、社員は自分の年休残日数について確認できるようにした。ガイドラインでの意識づけの効果もあり、年休取得率は徐々に改善していった。取り組み前の2015年度には15~20%台だった年休取得率は、2019年度には100%となった。

 働く環境を整えた結果、2020年は新卒採用で6人を採用できた。現在、社員は25人となり、社員一人一人の業務負担が減少した。その結果、2016年5月の社員1人当たりの月平均残業時間は28時間だったが、2020年8月は繁忙にも関わらず、同13時間に減少。「職場環境を整え、人材が増え、個人個人の負担が減る」という好循環を作ることができた。

「娘の遠征の付き添いが楽しみ」と笑顔の富山一寿さん。後輩の指導についての思いも語る

 

 遺族との折衝を行う業務部の富山一寿さんは、勤めて約3年になる。以前は飲食関係の仕事をしていた。「当時は土日も忙しかったが、ここに勤めるようになって娘との時間が増えた」と笑顔で話す。高校1年の長女、中学1年の次女ともに強豪校の吹奏楽部に所属しており、全国各地に遠征に行かなければならない。「会社の理解もあり、『この日に休みたい』という要望は何不自由なくかなえられている」と笑顔で話す。

長女、次女と笑顔で写る富山さん。娘と関わる時間が増えた

葬儀にも働き方にもイノベーションを

昨年夏に完成した社屋棟のテラス。社員の要望を受けて作り上げた

 昨年夏に完成した社屋棟のテラスは、社員にアンケートを行い、要望に応える形で作り上げた。1階に無料のウォーターサーバーやドリンクコーナーを設置し、2階にトレーニングルームを設けるなど、福利厚生を充実させている。

 葬儀は人が同じ空間に集まることになる。新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、「『こんな時に実施してもいいものか』と、周りの目を気にしているような雰囲気をご遺族からは感じた」と冷牟田社長は説明する。同社では感染症予防対策の実施について、のぼりやチラシ、ホームページで説明。そのほか、仮想現実(VR)映像を利用した施設見学、ウェブ上での決済制度の導入など、顧客に安心して利用してもらうための取り組みも進めている。

 今後の事業展開については、フランチャイズ店舗を拡大していく方針だ。斎場を貸し切るというサービスをより多くの顧客に提供していくため、近い距離間で出店していく「ドミナント戦略」を採用し、近隣都市である北九州市への店舗拡大を目指している。

 冷牟田社長は「低価格であっても、どれだけ葬儀に付加価値を付けられるかが重要」と強調する。葬儀のイノベーションを目指す中心となっていくのは、若手の社員だ。2021年にはまた新たな新入社員が入社する。働き方でも、イノベーションは続く。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

働き方改革に取り組むことを「宣言」

効果
働き方改革を進めるにあたり、働くうえでの心構えや考え方をまとめたガイドラインを2019年に作成。「報告・連絡・相談」「年次有給休暇」「社員旅行」など場面ごとに細かく明示し、働き方改革に取り組む姿勢を示した。
取組2

「育成残業」とスキルと連動した給与体系で若手社員育成の環境を整える

効果
若手社員が先輩社員に相談しやすい環境を作るため「育成残業」を2020年に創設。また、スキルアップが昇給につながる関係を就業規則上で明確にし、若手社員の育成環境を整えた。
取組3

年次有給休暇取得率アップなど職場環境を整え、新卒採用で人員を増やした

効果
年休の残日数をシフト管理表で明示するなどの見える化を行い、年休取得率が2019年に100%を達成。 以上の職場環境が改善されたことで、新卒採用で人員を増やし、社員一人一人の負担が減少。その結果、残業時間の削減にもつながった。

COMPANY DATA企業データ

故人様と最期の旅行ができる葬儀社を目指して

株式会社真浄葬祭

代表取締役社長:冷牟田真二
本社:福岡県中間市
従業員数:25名(パート2名、2020年9月現在)
設立:1991年
資本金:1,000万円
事業内容:葬儀全般、霊柩車寝台搬送、葬儀会場運営、生花

経営者略歴

冷牟田真二(ひやむた・しんじ) 1974年7月生まれ。高校卒業後、福岡県内の葬儀社で勤務。1994年に真浄葬祭に入社。2018年、創業者の父親の後を継ぎ、社長に就任。