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株式会社三本杉ジオテック
学術研究,専門・技術サービス業
北海道・東北
10〜29人
File.41
安心して働き続けられる職場に ―定年や育休制度を改正した三本杉ジオテックの場合―
2020.12.09
ボーリングで掘り出した地質試料を囲む三本杉裕社長(写真左から3番目)と技術部の皆さん
「うちの会社を代表する人材です」
同僚が誇らしく名前を挙げる社員が、福島市の「三本杉ジオテック」にいる。地質調査や井戸の掘削工事などを行う同社の技師長で、今年85歳の藤島泰隆さんだ。毎日出勤し、今も山道を歩いて調査現場に出向き、若手社員と一緒に働いて後進の指導にあたっている。
現役で働く85歳技師長
秋田大学で鉱山地質を学んだ藤島さんは、北海道の石炭会社から東京の地質調査会社に移り、取締役などを務めて定年で退職。人の縁で三本杉ジオテックに64歳で入社した。「技術士の国家資格を目指す社員の指導を頼まれて、70歳くらいまで手伝ってという話だったのですが」と振り返って笑う。
月曜朝に自宅のある仙台市から高速バスで約1時間かけて出勤。平日は福島市内のアパートで単身生活をし、金曜は正午まで働いて自宅に戻る週4日半勤務を、入社以来20年続ける。
県内約500カ所に及ぶ温泉地の地質の断面図を作成したり、砂防ダムの建設予定地で地下の岩盤の位置を割り出したりと、まさに現役。「妻には、病気をしないようにもっと働いてと言われます」
そう明るく話す藤島さんの存在は、会社が取り組んできた「長く勤めてもらえる環境づくり」のきっかけにもなった。
同社には、63歳以上に多様な働き方を認める「エルダー社員制度」がある。健康状態や家庭生活との兼ね合いで本人が希望すれば、決まった曜日を半日単位で休みにしたり、終業時間を早めたりできる。その分の基本給は減額されるため、本人の希望を前提にし、労使の話し合いで決定する。63歳を超えての通常勤務も可能で、シニア世代が労働時間を柔軟に設定できるようにと取り入れた。藤島さんを含む2名が制度を利用している。
社員の声を社内制度に反映
現在の社員は16名。かつては20名を超えていたが、退職が続き、求人にも応募がなく、人材の確保に苦労した時期が続いた。
人材の流出は公共工事削減で仕事が減ったことも要因だったが、三本杉裕社長は「会社の体制に不満もあったと思います。私の代に変わって、社員も会社を変える良い機会だと考えて、いろんな意見が出ました。それはむしろ有難いことと受け止めて、良いと思った提案は取り入れてきました」。2016年に父親から社長を引き継ぎ、エルダー社員制度をはじめ、それまで以上に働き方に関する諸制度を見直し、就業規則に明文化してきた。
子どもにまだお金がかかる50代後半に、役職定年で基本給が減らされると苦しい。結婚年齢が上がるなか、社員からの声を受けて18年に、課長相当職は57歳、部長相当職は58歳としていた役職定年を一律60歳に引き上げた。加えて、役職定年で約1割カットしていた基本給の減額を廃止した。定年退職年齢は06年から段階的に引き上げ、15年には65歳に改めた。
育児休業関連の規程も18年に改定。これまで無給だった育休を7日間は有給扱いにし、男性社員が取りやすいよう制度化した。さらに、1子につき1回限りだった取得を複数回に分けて取れるように就業規則に明記した。
共働きの三本杉社長は、子どもが病気をした際には看護休暇を取り、保育所の送り迎えもしていた。その経験から、午前8時半の始業を1時間遅らせる育児時差出勤も取り入れた。
育児休業と年次有給休暇を使い分けて子育て
2010年度から年次有給休暇を1時間単位で取れるようにしたのも特長の一つだ。また、年休の計画取得として年度始めに会社が、3日分の年休を飛び石連休の間の平日に充て、連続休暇にしている。年に2日、名目にこだわらない「記念日休暇制度」も設けている。
今年2月に長男が誕生した入社2年目の技術部の斎藤圭さんは、7日間有給扱いの育児休業と、1時間単位で取れる年次有給休暇を使い分けて子育てをしている。
妻が辛そうなときは育休を使って丸1日休み、家事をする。これまで5日取得した。夜泣きで寝不足が続き、仕事にならないときは年休を使い、午後5時半の終業前に2、3時間早く上がる。「必要なときに必要な分だけ休めるので良い制度だなと思います。勤務の相談ができる上司がいるのも幸せです」と斎藤さんは話す。
年次有給休暇取得率60%以上を5年連続達成
15年度から、年次有給休暇の「取得率60%以上」「取得日数12日」の目標を掲げ、年度末が近づくと、現状の数値を社内に掲示している。「全体であと何日休むと達成するのかと部門長が聞いてきて、休むように促してくれます」と総務部長代理の菅野美佳さん。
19年度の年休取得率は66.3%、1人当たりの平均取得日数は11.9日。年休取得率は5年連続で目標をクリアした。
月平均所定外労働時間は1人当たり1.6時間で、残業はほとんどない。公共工事関連が多いため年度末は忙しくなるが、それ以外は「個人の時間を大切にするように言っています。先輩が帰らないから帰りづらいという雰囲気はつくらないようにしています」(三本杉社長)。
技術部係長の川村直之さんの趣味はロッククライミング。高校時代から始め、国体の出場経験もある。年1回、年休を固め取りして約2週間、クライミングの本場アメリカで仲間と登るのが何よりの楽しみという。「仲間には、恵まれた職場環境だねと言われます」
勤務後の時間はジムに通ったり、資格取得の勉強に充てたりしている。地質調査技士、一級さく井技能士など、入社13年で4つの資格を取った。「多くの人がかかわる現場で、資格は自分の発言に説得力をもたせるものだと思います。これからも意欲的に取ろうと思っています」。後継が育っている。
社員の健康管理にも力を入れている。インフルエンザの予防接種費用は会社が負担。定期健康診断で要精密検査となり2次健診を受けた場合は、結果を会社に報告させている。バランスボールを椅子代わりに貸し出すユニークな健康増進策も取り入れた。
1名の求人に応募者35名
そうした取り組みから、若者が働きやすい環境を整備する中小企業を厚生労働大臣が認定する「ユースエール認定企業」に、制度が始まった15年に選ばれ、福島県初の認定企業になった。昨夏の事務職の採用では、1名の募集に対して35名の応募があり、「職場環境への取り組みが知られてきたのかな」と三本杉社長は手応えを感じている。
6月から8月にかけて、終業後の時間などを使って、毎年恒例の全社員参加による卓球大会が開かれた。ダブルスのトーナメント戦で藤島さんは3位に入賞、フットワークの良さを若手に見せつけた。
年を重ねて元気に働く85歳の大先輩から昨年入社した24歳までの「3世代」が、仕事と私生活を充実させている。
CASE STUDY働き方改革のポイント
多様な働き方ができるエルダー社員制度
- 効果
- シニア世代が労働時間を柔軟に設定できるよう、63歳以上の社員が希望すれば、決まった曜日を休みにしたり、終業時間を1時間早めたりできる。体力や家庭の事情に応じて労働時間が決められるように制度化。
役職定年時の基本給減額を廃止
- 効果
- 社員の声を反映し、課長相当職は57歳、部長相当職は58歳だった役職定年を60歳に引き上げ、約1割カットしていた基本給の減額を廃止した。長く安心して働けるように待遇を改善。
7日以内の育児休業を有給に
- 効果
- 男性社員の育児参加を促すため、それまで無給だった育休を、通算7日間は有給にした。 取得も1日単位で分割して取れ、1時間単位で取れる年次有給休暇を使い分けて子育てに向けた支援を整備。
COMPANY DATA企業データ
誠意・迅速・確実
株式会社三本杉ジオテック
代表取締役:三本杉裕
本社:福島市
従業員数:16名(正社員16名=2020年8月末現在)
設立:1973年
資本金:2,000万円
事業内容:地質や土壌汚染、構造物外壁劣化などの調査、井戸や温泉を掘るさく井工事を福島県内中心に展開。
経営者略歴
三本杉裕 1973年生まれ。新潟大学工学部卒業。自動車ディーラー勤務を経て、2001年三本杉ジオテックに入社。2016年に社長就任。福島県中小企業家同友会福島地区理事。趣味はDIY作業、好きな言葉は「ありがとう」。