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株式会社ランクアップ
卸売業,小売業
関東
50〜99人
File.43
子育てとキャリアップを両立させた働き方を応援 ―化粧品の独自ブランドを展開「ランクアップ」の場合―
2020.12.16
東京銀座にオフィスを構えるランクアップ(東京都中央区)は、オリジナルブランド「マナラ化粧品」の開発と販売を行う企業だ。従業員約100名のうち8割が女性で、その半数は子どもを持つ母親。同社では、急な発熱や学級閉鎖など、突発的な出来事がおこりがちな幼少期の子どもを持つ社員が、子どもと仕事の板挟みになることなく働ける環境作りに取り組んでいる。
激務だった前職時代の経験を反面教師に創業
「キャリアを積んできた女性が、出産と同時に仕事から遠ざかったり退職してしまったりするのはもったいない」。そう語る岩崎裕美子社長はかつて、ベンチャー広告代理店の取締役営業本部長を務め、全ての時間を仕事に捧げていた。当時の仕事は多忙を極め、身を粉にして働き続けた。残業や休日出勤が当たり前の厳しい労働環境から退職者が後を絶たず、岩崎社長は社員たちの待遇改善をたびたび進言した。しかし、その思いは会社の経営方針に阻まれ、失意のうちに退職した。
当時、不規則な生活と激務の影響で、実年齢より上に見られるほど肌が傷んでいた。前職のクライアントには化粧品会社も多かったため、様々な化粧品を試してみたが、効果を実感できるものには出会えずにいた。そこで、「自分が本当に欲しいと思える化粧品」「長時間労働しなくても良い職場環境」を軸に据え、前職で自分自身が何度も悩んだ「結婚と出産」「キャリアアップ」を両立できる会社を目指し、2005年にランクアップを創業した。
子育て期間のサポートで社員も会社も幸せに
2013年に「育児・介護休暇制度充実部門」、2016年に「長時間労働削減取組部門」で東京都の「東京ライフ・ワーク・バランス認定企業」となるなど、創業時の思いは結果として表れている。
なかでも、産休時から幼少期の子どもを持つ社員へのサポートが手厚い。同社では妊娠が分かると、本人とその上長、そして労務担当者で打ち合わせが行われ、「出産予定日の確認」「産休取得可能な期日の通知」「産休に年次有給休暇を加えて休暇を取得したいか」など、産休にいたる大まかなスケジュール確認が行われる。その後、業務の棚卸を行い、上長と相談の上、個々の業務を引き継ぐ担当者を決定。産休開始予定日の2カ月前になると、職場復帰のタイミングに関する要望についてヒアリングする。
産休に入ると、「産休チャット」とよばれるシステムを通して、人事部から社内の人事異動などの重要な情報が共有される。「会社の情報が何も入ってこなくて寂しかった」という産休を経験したママ社員の一言から始まった取り組みだ。
職場復職のタイミングは、出産後半年から1年半とまちまちで、本人に任されている。復職後は子どもが小学校三年生になるまでは6時間の時短勤務が認められ、発熱などイレギュラーな事態に対応できるよう、1~6時間まで1時間単位の時間休が取得可能だ。
1日300円でベビーシッターを利用できる「ベビーシッター補助制度」は、特に好評を得ている。気軽にベビーシッターを依頼でき、社員の負担を大幅に軽減している。もし預ける先がない時は、子どもを連れての出社も可能だ。会社の一室で、ベビーシッターに子どもを見てもらえる。
「時短勤務だけではママ社員には不十分。帰宅しても子どもの世話や家事など、ずっと立ち続けで働いているのだから」。同社初の産休取得者となった岩崎社長は身をもって育児の大変さを知っている。その経験から、可能な限りママ社員が心身の負担なく働けるよう制度を設けていった。
一方、時短勤務であっても、フルタイムで働く社員と同等の基準でそれぞれの業務が評価される。勤務時間の長短に関わらず、原則として自身の業務は自身でこなす必要がある。一見シビアな成果主義に思えるが、子どもを持つ社員たちは自分が休んでもフルタイム社員にかける負担が少なくなるため、気が楽だという。
原則定刻の午後5時半退社を社員に求める同社は、残業に対して非常に厳しい。毎月各社員の残業時間を可視化した残業リストが発表され、月20時間以上の残業が3カ月続くと、本人が業務の棚卸しをした上で、上長と労務担当者を交えての話し合いが行われる。そこで決められるのは、「業務の優先順位」だ。優先度の低い業務は他の社員に割り振られるか、アウトソーシングすることで残業削減に結び付けている。
残業時間に敏感になる理由について、岩崎社長は「時短で帰るママ社員とフルタイムで働く社員の労働時間を、できる限り乖離させたくない。ママ社員に申し訳ないという気持ちになって欲しくない」と説明する。
社員のアイデアを拾い上げる環境作り
現在の同社は産休後の職場への復帰率が100%で、多くの社員が出産・育児をしながらキャリアも積んでいる。7つある部長ポストはすべて女性が占め、うち6人が子どもを持つ社員だ。
海外事業部部長の西岡愛さんは、10歳の長男と8歳の長女の母親だ。夫が長期の単身赴任中であるため、家では父親役も担う。岩崎社長の前職時代、西岡さんは直属の部下だった。結婚を機に「女性が子育てをしながらキャリアアップはできない」と考え前職の会社を退職。一度は他の会社で派遣社員として働く道を選んだ。しかし、「出産しても、両親の介護が必要になっても、絶対に女性が働きやすい会社を作るから」という岩崎社長の言葉に惹かれ、長男を妊娠中に同社に入社した。
長男を出産した西岡さんは、復職後に「以前から挑戦してみたかった」というテレビショッピング部を経て海外事業部の部長に就任。当時はまだ長男が保育園児だったが、家族の手助けとともに同社のベビーシッター補助制度を有効活用することで、海外出張にも行くことができた。西岡さんは「以前は、仕事で夢など持ったことはなかった。でもこの会社で出産・子育てしながら働いているうちに、次々と挑戦したいことが出てきた」と自身の変化を語る。
コロナ禍でも「挑戦」を続ける
同社では、新型コロナウイルス感染症に最前線で対応している医療従事者に対し、ハンドクリームやホットクレンジングゲルの無償提供(送料も同社負担)を行っている。働き方にも変化があり、2020年2月から在宅勤務を開始した。在宅勤務における業務の優先順位や進捗を確認する「アクションプランシート」を作成したり、午前5時~午後10時の中で自由に勤務できる「スーパーフレックス制度」を導入したりするなど、生産性の向上と子育て中の社員が働きやすい環境を整えた。
仕事の中心がオフィスから自宅に変わったことで、新しい発見もあったという。「在宅勤務になり、私の働く姿を子どもたちが見てくれたのが良かったことの一つ。上司が私を褒めてくれた時など、その言葉を聞いていた子どもたちも『ママやったね』とうれしそう」。8歳の長男と3歳の長女の母親である人事総務部の青木麻喜子さんは笑顔でそう語る。現在は在宅と出社が半々だが、いまの勤務形態が自分にとっては最適だと感じている。
業績面では創業から2019年度まで右肩上がりが続いた同社も、今年度は初めて減収が予想されている。しかし、「挑戦」が行動指針の同社は、今の環境に合わせた新たな取り組みも始めている。
最も大きなものは、2018年から行っている社員全員を「インフルエンサー」にする施策の強化だ。「同社では自社製品最大の理解者は、毎日愛用している社員たちである」との考えのもと、社員全員が写真共有アプリ「インスタグラム」のアカウントを作成。専門家に運用のコツを学び、1日15分間、業務時間内にインスタグラムの時間を設けた。2020年10月現在、全社員の総フォロワー数は25万人。中には、2万7000人のフォロワーを持つインフルエンサー社員も誕生した。インスタグラムを通して同僚の新たな一面を知り、社員間のコミュニケーションが活発になるという相乗効果も生まれた。
岩崎社長は今後の働き方について、「毎日会社に来なければならないという時代ではなくなった。いつか世界中のどこでも働ける会社になれたらいいなと思っている」と説明。そのうえで「女性が何人子どもを産んでも、一生活躍し続けられる会社にしたい」と力強く語る。同社の挑戦と変化は、これからも続く。
CASE STUDY働き方改革のポイント
子育て期間中のサポートを充実
- 効果
- 「幼少期の子どもを持つ社員は、時短勤務だけでは不十分」という考えのもと、突発的な出来事に対応できるよう1~6時間の間で自由に時間休を取れる制度を導入。 また、ベビーシッター補助制度の活用により、社員が積み上げてきたキャリアを大切にしながら、子育てについてもサポートしている。
定時退社の徹底と勤務時間の長短を加味しない人事評価
- 効果
- 時短勤務や時間休を取る社員とフルタイム社員の労働時間・業務量の隔たりをなくすことで、双方のストレスを軽減。
コロナ禍でも対応可能な勤務制度の導入
- 効果
- 2020年2月から在宅勤務を開始。業務の優先順位や進捗を確認する「アクションプランシート」の活用や、「スーパーフレックス制度」を導入したりするなど、生産性の向上と子育て中の社員が働きやすい環境を整えた。
COMPANY DATA企業データ
たった一人の悩みを解決することで、世界中の人たちの幸せに貢献する。
株式会社ランクアップ
代表取締役社長:岩崎裕美子
本社:東京都中央区銀座3-10-7 ヒューリック銀座三丁目ビル7F
従業員数:87名(2020年10月現在)
設立:2005年6月
資本金:1,000万円
事業内容:オリジナルブランド「マナラ化粧品」の開発および販売
経営者略歴
岩崎裕美子(いわさき・ゆみこ) 1988年、藤女子短期大学卒業。大手旅行会社に入社。その後ベンチャーの広告代理店に転職し、1999年から取締役営業本部長として活躍。2005年、株式会社ランクアップ設立。