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クオリティソフト株式会社
情報通信業
近畿
100〜300人
File.44
大自然に囲まれた環境で社員の創造力を高める ―地域密着型IT企業「クオリティソフト」の場合―
2020.12.16
クオリティソフト(和歌山県白浜町)は、企業のIT資産管理やパソコン・スマートフォンなどエンドポイントのセキュリティサービスを提供するIT企業だ。最大の特徴は、日経ニューオフィス賞で「近畿ニューオフィス奨励賞」を受賞(2017年度)した本社オフィスにある。「INNOVATION SPRINGS(イノベーション・スプリングス)」と名付けられた敷地は、社員が能力を最大限発揮できるようさまざまな配慮が施され、同時に近隣住民をはじめ多様な人々が集う場としても活用されている。都市圏ではなく地方だからこそ可能なその空間は、地域の人たちと共に社員がイノベーションを生み出せる環境になっている。
働く人の「集中と分散」を実現するノマド空間
1984年設立の同社は、長い間、東京都千代田区麹町に本社を構えていた。2016年12月、南紀白浜の空き建物をリノベーションし本社を移転。移転に際し、固定席をなくし社員がその日働く席を自由に選べるフリーアドレスを導入した。働く空間づくりはさらに一歩進み、自然に囲まれた恵まれた立地を生かし、自然を感じながら仕事ができるオフィスを目指した。「オフィスが自然と呼吸し、働く人の『集中と分散』を実現する空間」をテーマに、フリースペースが多めに作られたオフィスには、一般的な四角い机がない。地元紀州木材で作られた「モノリス」と呼ばれる有機的形態の大きなデスク、天然丸太ベンチやストレッチスペース、特徴的なミーティングスペースなど、各自に合ったスタイルで仕事ができるよう設計されている。
東京から白浜に本社を移転したのは、「自然豊かな地方に住むことで、日本人は本当の人生の豊かさを得ることができる」という浦聖治社長の考えからだ。社員90人のうち地元出身者は9割以上。地元の学校を卒業してそのまま入社というケースもあれば、東京や大阪などの都市圏からUターンしてきた社員もいる。
Uターン組の一人である2017年入社の人事チームチームリーダーの久保満子さんは、東京の大手IT企業で長年人事業務をしていた。地元に戻ってきた当初、「IT企業の人事というキャリアを生かせる職場はない」と思っていたという。同社の新社屋オープニングとして行われていた餅まきを偶然目にし、同社の存在を知った。その後入社に至り、現在は貴重な人事の専門家として、会社の屋台骨を支える一人だ。
「フリーアドレス」と「自然に囲まれたオフィス」が生み出す改革
改革はオフィスの設計だけにとどまらず、部門を横断する形でメンバーを集めた「ムリ・ムダ・ムラ解消」タスクフォースを発足。部署間で相互に課題を指摘し合いながら全社員への意識づけを図った。フリーアドレスの副次的効果として、ペーパーレス化が進むなど業務のスリム化が進んだこともあり、全社平均残業時間は2017年度の月22時間から、2018年度は月16.6時間へと24.5%減少させることに成功した。残業が多くなりがちな製品開発部門でも、月27時間(2017年度)から月19.2時間(2018年度)と、28.9%減少している。
今年10月から始まった「年間業務時間のうち48時間は、自身の業務以外のことに携わる」という内容の「Challenge48」は、豊かな自然に囲まれたオフィスを持つ、同社ならではの取り組みだ。社員の多くを占めるエンジニアは、その仕事柄、出社から退社までイスに座っている時間が長くなってしまう。社員の健康を考え、より心身共にリフレッシュできる環境を作ろうと取り組みが始まった。
「Challenge48」の取り組みとして選択できるのは、地域への社会貢献活動、例えば草刈りや海岸清掃、地域イベントへのボランティアなど。豊かな自然に目を向けることで脳を活性化させたり、体を動かすことで集中力や創造力を高めたりするのが狙いだ。雑談などを通し、普段会話する機会が少ない社員同士が交流を深めることも期待されている。
外で体を動かすことだけでなく、オフィス内で他チームの業務を手伝うことも可能だ。そこでは普段とは違う側面から業務に接するため、「新たな視点の獲得」「ノウハウの共有」が期待できる。もし他チームの業務に興味が沸き、自身に適性があると思えば、キャリアチェンジも検討できるという。
同社の企業理念に「クオリティースタイルを、理想の働き方にします」との一文がある。Challenge48の担当である久保さんは理念について「ワイワイ、ガヤガヤ、おもしろいことやろう、でかいことやろう、喜んでもらおう」と説明する。その上で、「やはり自分自身がワクワクして楽しく仕事をしていないと、良い物は絶対に作れない。そのために、普段の業務から少し離れ、違うことをすることで新しい何かが生まれるのではないかと考えている」と取り組みの意義について語る。
浦社長は「Challenge48の48時間という時間は、弊社における年間業務時間の約3%にあたる。単純計算では、一人ひとりの通常業務から3%がなくなるわけだが、集中力や創造力が高まることで、プラス6%の生産性向上へとつながり、結果的に103%の成果になると考えている」と力強く語る。
社員の自律を促し、柔軟性とスピード感を高める
働き方改革の取り組みを浸透させるカギが「風通しの良い職場環境」の構築だ。同社では2020年4月、旧来のピラミッド型だった組織体系から、フラットなチーム制に移行した。その目的は、社員の自律を促進し、意思決定の早さや、より柔軟な業務への関わり方を可能にするためだ。本部長・部長・課長などの役職は廃止され、役職は「チームリーダー」「グループリーダー」のみとなった。
同時に職務権限などの関連規程も改訂。機能ごとに組まれるチームの中心として、チームリーダーには大きな裁量権が与えられた。チームリーダーは、現時点で適正な能力を持つ社員だけが選ばれるわけではなく、一人一人の将来性や潜在能力を考え、育てる目的で選ばれることもあるという。
グループリーダーは、「機能ごとにグループ分けされたチーム全体のリーダー」という位置づけだ。だが、役割は各案件やチームの取りまとめではなく、チームリーダーのサポートが主となる。各チームが経営目標達成のためにビジョンを掲げ、トップダウンではなくチームが主体となって考え、経営に対して提案していく組織運営を実践している。
また、社員のベクトルを合わせるための取り組みとして、「理念浸透キャラバン」が開始された。企業理念やミッション、ビジョンなどを社員一人一人が深く理解することで、全社一丸となり一つの目標に向かっている。
オンラインとリアルを両立させた働き方
コロナ禍において、同社は大きな混乱も問題もなくスムーズにテレワークに移行できた。その理由は、同社の主力製品がリモートワークを行う企業のIT資産管理や、社員が業務で使用するエンドポイントであるパソコン・スマートフォンなどのセキュリティサービスであるため、すでにその環境が整っていたことにある。
浦社長は「ビジネスを広げるにはオンラインで良いと思う」と指摘。一方で、「新しい何かを生み出すには、やはりリアルも必要。オンラインとリアル、両方を使うことによってより大きな広がりが出てくるのではないか」とオフラインの交流の大切さについて強調する。また、「地元で生まれ育ち、この環境を当たり前だと感じている社員も多い。しかし、地元の人間だからこそ、南紀白浜の自然の素晴らしさをしっかりと享受して地域を活性化させてほしい」と、地域とのつながりについての思いを語る。
リモートワークなど、オンライン上でのつながりが注目されている。しかし、ビジネスにはリアルでの交流が生み出すものも必要だ。そんななかでも、同社はオンラインとリアルを組み合わせた新しい「仕事のあり方」「働き方」を提示しているといえるだろう。
CASE STUDY働き方改革のポイント
フリーアドレスと自然に囲まれたオフィス環境
- 効果
- 本社移転に伴い、フリーアドレスを導入。移転先が自然に囲まれていたこともあり、自然を感じながら仕事ができるオフィスを構築した。
「ムリ・ムダ・ムラ解消」とオフィス環境を生かした取り組み
- 効果
- 部門を横断したメンバーで「ムリ・ムダ・ムラ解消」タスクフォースを発足。部署間で相互に課題を指摘し合いながら全社員への意識付けを行い、残業削減に結び付けた。また、自身の業務以外の業務に携わり、社内の活性化を図る「Challenge48」を導入。社員の集中力、創造力を高めるよう工夫している。
社員が働きやすい環境、創造力や生産性を上げる仕組みの整備
- 効果
- ピラミッド型組織体系を廃止し、チームリーダーとグループリーダーだけのフラットな体制に変えた。社員の自律を促進し、意思決定をより早く、業務への関わり方をより柔軟にした。
COMPANY DATA企業データ
INNOVATION SPRINGSで世界を豊かに
クオリティソフト株式会社
代表取締役社長:浦聖治
本社:和歌山県白浜町
従業員数:157名(2020年10月現在)
設立:1984年2月
資本金:1億1,203万5,000円
事業内容:クラウドサービスとパッケージソフトウェア製品の開発及び販売業務ドローンソリューション関連事業その他事業
経営者略歴
浦聖治(うら・きよはる) 1973年国立和歌山工業高等専門学校電気工学科卒業後、パイオニア入社。1981年マイクロシステムズ入社。1984年、翻訳会社としてクオリティサービス(現クオリティソフト)を設立。