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中田工芸株式会社

業種

製造業

地域

近畿

従業員数

50〜99人

File.47

働き方はブランド価値向上につながる ―木製ハンガー専門メーカー「中田工芸」の場合―

生産性の向上による処遇改善

2020.12.16

中田工芸株式会社

 創業約70年の中田工芸(兵庫県豊岡市)は、日本で唯一、木製ハンガーを専門に製造、販売している。培った技術と経験を活かし2007年、自社ブランドを確立。高級な木製ハンガーを直接消費者に販売するビジネスモデルを展開したことから利益率が上がり、成長を遂げてきた。その過程で、「社員の働き方がブランド価値に反映する」という価値観のもと、残業を減少させるなどの働き方改革を実行した。

技術と知識を磨き、ビジネスモデルを開拓

 メイドインジャパンの底力は、高級な洋服を掛ける木製ハンガーにも発揮されている。手作りならでは繊細なフォルムと上品な光沢。手にすると木の質量感がズシリと応える。まさに「木製工芸品」だ。その価格は、1本3万円。贈答用ギフトとして人気だという。

熟練した技で作り出される中田工芸の木製ハンガー

 国内で唯一の木製ハンガー専門メーカーとして歩んできた同社の歴史は、アパレルメーカーとともに進展した。1980年代のDCブランドブームで最盛期を迎え、製造はフル回転。アパレルメーカーが競って新たなファッションを創造していくのに伴い、世界的にも水準の高いハンガー製造技術が磨かれていった。

 そうした時代の中で、1985年にイギリス王室エリザベス女王の来日を機に、同社のハンガーが迎賓館に納品され、その技術が国内外で高く評価された。だが、アパレル業界は景気低迷に伴い減速。そこで、販売先を価格競争の激しいアパレルメーカーや小売店、ホテルによらず、直接消費者に販売する手法に活路を見出した。いわば、BtoBからBtoCへのビジネスモデルの転換だ。

 業界に先駆け、2000年に通販サイトを開設。個人消費者を意識した製造にも力を入れ、売り上げを伸ばした。7年後には「こだわりの上質な木製ハンガー」をコンセプトに、自社ブランド「NAKATA HANGER」を立ち上げる。同時に、東京・青山に業界初のハンガー専門店となるショールームをオープンさせた。

 近年はデパートでの販売も増加し、引き出物を中心とするギフトや記念品として人気が上昇。ファッションの備品だった業務用ハンガーを、個人の「ファッション・ケア・アイテム」として進化させている。

「NO残業」で月平均残業時間を削減

働き方は「ブランドの信頼にも反映する」と語る中田修平社長

 中田修平社長は「一流のモノを製造していくなかで、世の中のモノは“どういう人がどういう思いで作っているのか”と興味を持ち始めました。そこで見えてきたのは、環境への配慮や社員の働き方がブランド価値に反映されていることでした」と、自社で働き方改革を実行する意味や価値を語る。ビジネスモデルの転換により、利益率は向上。「そのゆとりを活かして働き方の改善に取り組むことができました」と解説する。

 ブランド価値を保っていくため、改革は2014年からスタートした。社員全員が取り組みの参加者として自覚を持ち、一人一人が改善案を考えた。集まった提案内容を、社内の全8部署から1人ずつ選ばれたコーチが持ち寄り、検討を実施。取りまとめられた改善案を各部に持ち帰り、改革を実行し評価している。
コーチたちが検討する場は「改善委員会」と名付けられた。社長は参加せず、各部長が責任者となった。「その方が、本音が出やすいでしょう」と中田社長は説明する。

 改善委員会が、最初に掲げた目標は「NO残業」だった。ノー残業デーを2014年から実施しきっかけを作り、中田社長が社員へ声がけを続けた。結果、社員一人一人に残業削減の意識が芽生え、年間で残業を減らす工夫を行った。例えば、営業部は「個人プレー」から「チームプレー」へと変革していくことを意識した。取引先などの情報を共有し、チームで対応していくことで残業が減ったという。結果、2014年の1人当たりの月平均残業時間は24時間だったが、2019年は9.5時間に削減された。この間、売り上げは変わっておらず、「量から質へとビジネスモデルが変わることで製造に“ゆとり”が生まれ、残業削減が浸透しました」と中田社長は説明する。

残業削減で子供と過ごす時間が充実したと話す櫻井茂美さん

 入社後8年で培った職人技で木材を加工し、ハンガーを造る櫻井茂美さんは「入社した当時は繁忙期の残業が長時間に及び、子供と過ごす時間が少なかった」と振り返る。それでも、「今は基本的には定時時間で帰宅でき、繁忙期の残業もかつての半分になりました。小学3年と5年の息子たちはそれぞれスポーツ活動をしているのですが、その上達を見守ることが何よりも楽しみです」と笑顔で話す。

子供とキャッチボールする櫻井茂美さん

ペアレント休暇、ジェンダーギャップに注力

 改革は継続して続けており、現在は「子育て世代への対応」「ジェンダーギャップの解消」を大きな課題として、営業開発課において改善を進めている。

 「子育て世代への対応」については、育休とは別枠で子供のために年間で1人10日間の休暇が取れる「ペアレント休暇」を独自で制度化。男性社員には浸透しにくいと考えた中田社長は7月、率先してペアレント休暇を取った。「これからの少子化に対応するため、男性も家事や育児にかかわる時代。ペアレント休暇により夫婦が一緒にいる時間が長くなれば、女性も安心するでしょう」と自らの体験を通して語る。

 「ジェンダーギャップの解消」もビジネスモデルの変化へと結びついている。「自社ブランドの確立」「個人消費者向けのギフト商品開発」により、女性社員の活躍の場が広がったからだ。

 かつては男性社員が多かったが、この10年で女性社員を積極的に採用し、全体の約3割が女性社員になった。女性社員の主な活躍の舞台は営業で、ギフト商品のラッピングにも女性ならではの視点が生かされている。中田社長は「今後は海外展開も視野に入れていますが、英語が使える社員の多くは女性。やがて、わが社にも女性のリーダーが誕生することでしょう」と期待を寄せる。

「育児しながら、仕事も楽しい」と話す大田垣さん

 商品部で検品とギフト商品のラッピングを担当する大田垣野登香さんは、入社後結婚し、2019年に出産。1年間の産休を経て復帰した。「会社は居心地がいいので育休中も遊びに来ていたほど。今は育児しながら仕事。大変だけど、残業ゼロなので保育園にも子供を迎えに行けます」とはにかんだ。

子育てしながら仕事に励む大田垣野登香さん

自社ブランドを武器にオンラインで海外市場へ

 新型コロナウイルス感染症の影響により、業務用ハンガーを納品していたアパレル、ホテルなど、従来の取引先は大打撃を受けた。個人向け商品を納品するデパートや結婚式の引き出物にも影響があったという。

 「自社ブランドを強化し、オンラインのチャネルを進化させるときと考えている。海外からインターネットで販売できる環境を整え、海外展開に臨んでいこうとしているところ。難しいかもしれないが、オンライン接客も検討中だ」と新たなチャレンジに、中田社長は意欲を見せる。ビジョンはオンリーワンの強みをさらに磨き、「世界一のハンガー屋になること」。「いいものは職人が作ってくれる。それを知恵と工夫で世の中に届ける。いいものを作りながら売るのは難しいことですが、やりがいはあります」と胸を張った。

 「働き方」が整うことで、現場の士気が上がり、ブランドがさらに磨かれていく。その姿勢は多くの「ものづくり」の現場がモデルとすべきケースといえよう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

残業時間削減の取り組み

効果
各部代表者による改善委員会を2014年に発足し、社員全員で働き方の改善を考え、実施している。ノー残業デーの導入、中田社長の社員への声がけ、社員一人一人が残業削減を意識して勤務に当たるなど残業時間の軽減に取り組み、1人当たりの月平均残業時間が24時間(2014年)から9.5時間(2019年)に削減した。
取組2

ペアレント休暇の導入

効果
男性社員には育休とは別枠で、子供ために年間で1人10日間の休暇が取れるペアレント休暇を導入。社長が率先して取得することで、気兼ねなく取得できる雰囲気を作り出している。
取組3

ジェンダーギャップの解消

効果
ここ10年間で女性社員を積極的に採用し、が全社員の約3割に増加。自社ブランドの進展で女性社員のさらなる活躍が期待される。

COMPANY DATA企業データ

日本のアパレル企業の発展を支える。

中田工芸株式会社

代表取締役社長:中田修平
本社:兵庫県豊岡市
従業員数:63名(正社員62名、非正規雇用労働者1名)(2020年4月時点)
設立:1956年(創業1946年)
資本金:3,000万円
事業内容:木製ハンガー、ディスプレイ什器、木製クラフトの製造および販売

経営者略歴

中田修平(なかた・しゅうへい)。1978年生まれ。2006年アリゾナ大卒、2007年取締役として入社し、2017年から代表取締役社長。