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株式会社WORK SMILE LABO

業種

卸売業,小売業

地域

中国・四国

従業員数

10〜29人

File.59

事業の構造転換を進める中で改革を進展 ―新しい働き方を提案するオフィス機器販売会社「ワークスマイルラボ」の場合―

テレワークの推進

2021.01.28

株式会社WORK SMILE LABO

 働き方改革を進めたいが、「どこから手をつけていけばいいのかわからない」という悩みを抱えた中小企業は多いだろう。事務用品やオフィス家具、OA機器販売を手掛けるワークスマイルラボ(岡山市)は、2015年から全社員が一体となり働き方改革を実践し、自社オフィスを公開。働き方改革の取り組みに関心のある地元の企業を中心に見学してもらい、「働き方そのもの」を売っている。

 新型コロナウイルス感染症の影響が広がるなか、2020年は全社員をテレワークに切り替えた。顧客との商談もリモートで行うなど、ネットワーク環境を生かしたことで商圏は全国に拡張。コロナ禍にあって、売り上げの減少を最小限にとどめ、新規取引先も増加。社員一人当たりの生産性も向上しているという。

事業の行き詰まりから「ハード」の改革を実施

 同社は、1911年に筆や墨を売る文具店「石井弘文堂」として設立された。その後、事務用品やオフィス家具、OA機器などを販売してきたが、2008年のリーマン・ショックで業績が悪化。追い打ちをかけるように、インターネット通販の普及に伴い価格競争が激化し、倒産の危機を迎えた。「メインバンクからはビジネスモデルを変えることが支援の条件と提案され、二つのことを変える決断をしました」と4代目の石井聖博社長は振り返る。

会社の二つの変化について説明する石井聖博社長

 一つ目は、「売るモノを変える」こと。OA機器そのものだけでなく、OA機器をめぐるITとその活用方法までを含めた「働き方」そのものを提案し、販売することとした。二つ目は、「売り方を変える」ことだった。「取引先へ訪問して販売するスタイル」から、「自社に訪問してもらうスタイル」への転向だ。

 自社に訪問してもらうとなれば、顧客の手本となるような「ハード」の改革を行わなければならない。そこで、「『働く』を笑顔に」をコンセプトに、社内改革を具体化した。築約30年の本社ビルの内装を変え、オフィスのほか、セミナー室や談話室、商談室などを設け、顧客に来社してもらう環境を整えた。ゼロから始まった「顧客に訪問してもらう営業」は2016年夏に開始。2019年度末までの約2年半で、1,070社の担当者が訪れた。

商談などが行われる、開放的な談話室

テレワークの導入と全社一体となった生産性向上への取り組み

 「ワクスマ」と呼ばれるオフィスは、全体が整然として清潔だ。社員はデスクの数よりも少なく、決まった席はない。パソコンを手に、誰がどこに座ってもいいフリーアドレスだ。パソコンに目を移すと、退社時間とともに「退社宣言」と記載されたポップが取り付けられている。退社時間を目に見える形にすることで「残業をしない」という自身の意識付けだけでなく、退社時間を他者と共有することで退社しやすい雰囲気を作ることができる。

退社時間とともに「退社宣言」と記されたポップ

 オフィスの見た目は整ったが、顧客に働き方を提案する以上、中身も伴っていなければ説得力に乏しい。実際に、同社でも子どもや家族の都合で急な欠勤が重なり、「会社やほかの社員に対して心苦しい」「休んだ分給料が減る」と悩む社員がいた。一方で、急な欠勤のあおりを受け、仕事量や負担が増えることを不満に思う社員もいた。

 石井社長は「働き方改革を進めていくなかで、私も当初は長時間労働を是正しようと、社員に度々早く帰るよう言っていた」と振り返る。しかし、隠れて残業する社員もいたといい、生産性はかえって悪くなってしまった。「何のための働き方改革なのか」。石井社長は自問自答を繰り返し、「生産性を上げるため」という答えにたどり着いた。

 中身の伴った改革のカギは積極的なテレワークの導入だ。「テレワークをうまく導入することで働く時間を自由にチョイスできる。」と石井社長は説明する。オフィスの壁面に設置されている二つの大型の液晶モニターのうち一つには、自宅でテレワーク中の社員の映像が映し出されている。事務所内から話しかけると、自然と対話でき違和感はない。

 同時に、生産性についても「KPIボード」を活用して見える化した。大型モニターのもう一方に表示されているKPIボードには、「会社全体の業績」「社員各自の目標と実績」「達成率」「訪問社数」から「賞与金額合計」までが表示されている。会社の家計簿といえるもので、会社の状況について「見える化」し、全社員が把握できるようにしている。会社全体の重要な数値だけでなく、個人の業務の進捗状況について全社員で共有することで、生産性を高める意識を全社員で高めているのだ。

 これらの取り組みの結果、2015年から2019年までで時間当たりの生産性は270%向上したという。生産性の向上は残業時間削減にも結び付き、2016年の年間残業時間と比較し、2017年は41.3%減少した。

テレワークが生んだ柔軟な勤務スタイル

テレワークの効果について説明する瀬尾直樹さん

 テレワークを推進する、マーケティング室マネージャーの瀬尾直樹さんは「不妊治療、妊娠、出産、子供や家族の体調不良などが理由で休職や退職を余儀なくされる方もいると伺っている。また、女性だけでなく男性社員にとってもテレワークを導入することで仕事の効率を上げていくことができるはず」と話す。テレワークを導入することで柔軟な勤務スタイルが可能となり、それぞれの事情に合わせた働き方が可能となったのだ。

「テレワークで仕事の効率が良くなりました」と話す黒谷明香さん

 OA機器販売業の職場は、圧倒的に男性社員の割合が多いといわれている。同社も例外ではなかったが、テレワークを導入した2016年から女性社員が増え、現在は半数以上となった。ビジョン実現開拓チームの黒谷明香さんは、約1年半前に入社し、テレワーク支援のコンサルティング業務を行う。「家族の介護で会社を辞めた経験があり、テレワークができる環境に魅力を感じ入社した」と振り返る。実際にテレワークにより通勤時間がなくなったことが、生活の負担減につながっている。「すき間となる時間は家事やプライベートに使える。仕事は自宅で集中して進めることができ、業務効率は上がっている。コンサル業務は初めてだが、新しいことにどんどん挑戦できるので楽しい」と笑顔を見せる。

液晶画面越しに自宅から社内へ話しかける小野道子さん

 約2年前に入社し、総務、営業を行う小野道子さんは、妊娠をきっかけに昨年からテレワークに切り替えた。「通勤時間がなくなったことが一番。つわりが激しい時など、すぐに横になれ、助かった」と話す。朝礼から退社までモニターが作動しているため、社内のささいな音も届く。用事があれは互いに声をかけ、業務を進めていくという。「普通に一緒に社内にいる感じ。離れて仕事をしていることによる違和感はない」と言う。

今後の働き方のモデルの一つとして

 働き方改革の取り組みは現在も進行中で、内容については月1回、社員全員が参加する会議「ワクスマ改善案」で協議される。社員一人一人が社内の改善ポイントを小さなことでも出し合うものだ。「これも大切な仕事。そこから商品コンテンツができる。同じように困っている会社はたくさんあるはず」と石井社長は説明する。

 コロナ禍における影響は同社も例外ではなかった。全社員をテレワークとし、商談もリモートに切り替えた。対策に追われたが、新しいチャンスも生まれた。「商圏はこれまでの岡山県内から全国に広がり、新規取引も増えた」(瀬尾さん)という。

 テレワークの可能性について手応えを得た石井社長は「日本のワークスタイルモデルカンパニーになる」とビジョンを示す。「うちのように地域に根差した事務機器の販売店は、全国に約5,000社ある。その一つ一つはフェイス・トゥ・フェイスで積み上げてきた顧客基盤を持つが、30年以上変わらない売り方のため衰退している」と指摘する。その上で、「一方で働き方を変えたい地域企業のニーズは高まり続けている。そのニーズを全国の事務機器販売店が相談相手から受け止め、働き方改革を促せば日本の中小企業は変わるはずだ」と力を込める。

 コロナ禍ということもあり、多くの企業が新しい「働き方」を模索している。その中で、同社が提案する働き方のモデルは存在感を高めていくことだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

ビジネスモデルの転換に伴い顧客のお手本となるようなオフィスを構築

効果
「働き方」を提案するビジネスモデルに転換したことから、顧客のお手本になる働き方を模索した。結果、フリーアドレスや大型モニターなどを導入した働きやすいオフィスの構築に結び付いた。
取組2

テレワークの導入とKPIボードによる情報共有で生産性向上

効果
テレワークを導入することで柔軟な働き方が可能になった。それだけでなく、オフィスの大型モニターに会社の業績や個人の業務進捗状況を映す「KPIボード」を導入し、情報を共有。生産性を向上させる意識を全社的に高めた結果、2017年には前年比で41.3%の残業時間削減に成功した。
取組3

働き方改革の改善案を全社員で考える

効果
社員全員が参加する会議「ワクスマ改善案」を月1回のペースで開催。全社員で社内の改善ポイントを出し合い、協議している。

COMPANY DATA企業データ

「働く」に笑顔を!

株式会社WORK SMILE LABO

代表取締役社長:石井聖博
本社:岡山県岡山市
従業員数:28名(役員3名・正社員22名・アルバイト3名)
設立:1911年
資本金:5,300万円
事業内容:働き方支援 DX支援 商社(文具・OA機器販売・日用品)

経営者略歴

石井聖博(いしい・まさひろ)。1979年生まれ。帝京大学経済学部卒。2006年、4代目後継者として入社し、2015年から代表取締役社長。