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西精工株式会社
建設業
中国・四国
100〜300人
File.62
理念を土台にした「対話型働きがい」改革 ―パーツ・ナット製造販売「西精工」の場合―
2021.01.28
自動車や家電に使用されるナットを中心としたファインパーツの製造、販売を手掛ける西精工(徳島市)は1923年に設立された。日本製品の品質の高さを下支えし続け、間もなく創業100年を迎える歴史ある同社だが、過去には社内が暗い雰囲気に包まれている時期があった。「大量生産の時代は終わり、これからは『何のために』『誰のために』仕事をするのか考えなければならない」。5代目である西泰宏社長の思いから、同社の働き方改革が始まった。
改革の土台となる会社の哲学
2013年に「日本でいちばん大切にしたい会社大賞中小企業庁長官賞」、2017年に「ホワイト企業大賞」など各賞を受賞。同じく2017年には優れた子育てサポート企業を認定する「プラチナくるみん」の認定を受け、「働きがいがある職場」として高い評価を受けている。
今では輝かしい実績が並んでいるが、後継者として西社長が入社した1998年当時の会社はあいさつが少なく、暗い雰囲気だった。それだけでなく、仕事中に社員の不注意による事故も起きていた。しかし、「社員が悪いのではなく、不注意を見過ごしてしまう空気感を作り出してしまっていた会社自体に原因があると考えた」と当時を振り返る。
現状を変えるべく、自ら率先して清掃活動やあいさつ運動を行ったが、劇的な変化は見られなかった。行き詰まりを感じる中、西社長は一つの答えにたどり着く。「これまでは『すべき』で語っていたが、『何のために働くか』という理念を会社自身が持たなければならないのではないか」。
社是・社訓はあったものの、大量生産時代の「べき論」を反映させたようなものだった。新たな風土文化を作り、会社を変えていくため、改革の土台といえる経営理念「ものづくりを通じてみんなが物心共に豊かになり、人々の幸福・社会の発展に貢献すること」は2006年に誕生した。
理念浸透のための「対話」
理念を制定しただけでなく、社員への浸透を図るための取り組みも行った。経営理念制定後は社内のツールを使い、西社長が朝一番に全社員が使用するグループウェアにメッセージを配信。「働く意味」や「あいさつの大切さ」など、1週間ごとにテーマを変えて発信した。午後5時までに社員から返事を募り、さらに西社長が反応を返していく。
社長と社員の対話は3年間続けられた。3年間のやり取りは、同社が大切にしたい200項目をまとめた「西精工フィロソフィー」として文書化され、現在も朝礼で共有されている。同社の朝礼は毎日1時間行われている。「働きがいを感じることこそが働き方改革。仕事に幸せを感じれば生産性は上がっていく」という考えのもと、大切にされている1時間だ。
社員が働きがいを感じるため、人事評価と給与体系の見直しも同時に進められた。以前は役員の感覚により評価、給与が決まっていたが、評価項目を設定し、それに準じて給与を決める方法にした。評価項目は「役割」「スキル」「目標管理」の3項目となっており、目標管理で問う目標についてはそれぞれが上長と話し合いながら3つ設定している。この話し合いも「対話」の一つだ。
対話は朝礼、目標の設定だけにとどまらない。「リーダーシップ勉強会」と称される勉強会では、「主体性を発揮してほしい」と西社長自らが講師となり、社員に対し「働きがい」「生きがい」について伝えている。そのほか社員が講師となり開講される「企業内大学」では国家資格取得やビジネスマナーなどのスキルに関する講義も行われており、その姿は学校の授業風景のようだ。
製造部製造四課の田中一生さんは製品の梱包、出荷業務を担う。会社の魅力について「ビジョンや会社方針などの情報がオープンにされており、今後の方向性や会社が大切にしていることが明確になっていること」と話す。理念を掲げるだけでなく、実践されていることで「同じ価値観のなかで仲間と働くことができている」と笑顔で話す。
企業内大学によって知識の向上や、市場の動向やトレンドを知ることができると説明するが、何よりも「顧客」と「製品の用途」について学べることが大きいという。「自分たちの製品を使っていただくお客様のことや、具体的にどのようなものに使われているのかを知ることができる。そうすることで、社会の役に立っていることを実感できる」(田中さん)というように、「何のために」「誰のために」働いているのか社員一人ひとりが理解した上で日々の業務に当たっている。
お互いを知ることで改革は進む
「制度や仕組みを入れて形だけ整えても意味がない。風土文化がないと会社はおかしくなる」。西社長の言葉の通り、「理念」という土台ができ、働きがいがある職場への動きは自然と進んでいった。社員同士の本音の対話により、それぞれの背景を互いに理解し、助け合う空気感が作り出されていった。育休取得率は100%、産休からの復帰率も100%を維持している。
かつては年休も1日単位での取得となっていたが、10年前には半日単位で年休を取得できる、半日休暇制度を導入。3年前には1時間単位で年休を取得できる時間休制度を導入した。「子育て中の社員にとっては、1時間単位のほうが休みやすい。社内の本音の対話によって、社員の背景が分かるからこその対応だ」と西社長は説明する。
「子育てしやすい職場環境ができあがっている」と語るのは営業技術部技術課の宮本恵さんだ。3歳の長男の母親だが、育児休業から復帰後は長男の体調不良により休まざるを得ない状況があったという。「休むことへの心苦しさもあったが、同じ係はもちろん、他部署の方まで『大丈夫?』と休むたびに温かい言葉をかけてくれた」と振り返る。
毎朝の朝礼などの際にプライベートの話も深く行える雰囲気があるといい、「子育てや仕事との両立で悩んでもすぐ相談できる」とコミュニケーションが活発であることの利点を説明する。時間休制度については長男が体調不良の際に病児保育への送迎や病院に連れていく際に活用しているといい、「大変助かっている」と笑顔で語る。仕事の目標について「技術職として一人前になり、お客様から頼られる存在になりたい」と話し、母親としても「『お母さんの子で良かった』と言ってもらえる母親になること」と意気込んでいる。
わくわくして働ける職場へ
新型コロナウイルス感染症による影響は製造業の現場にも大きな影響を与えた。同社の主力製品は自動車関係の部品だ。自動車の製造が一時ストップしたことにより、2020年5~6月は、通常時の売り上げと比べ半分近くに落ち込んだという。それでも、「理念やビジョン、お客様が喜ぶ製品を生み出すことに変わりはない」と会社の土台がしっかりしていたことで、社員一人ひとりが改めて働く意味を考える機会になった。
同社の哲学は変化し続けている。2009年には「経営ビジョン」、2010年には創業者である祖父の会社としてありたい姿をを明文化した「創業の精神」を制定した。2013年には「経営理念」が改定され、「ミッション」「ビジョン」「行動指針」の3本柱となった。時代の変化に合った「働く意味」を模索し、変化を続けているのだ。
社内の調査では、月曜日に出社するのが楽しみと答えた社員は9割近くになるという。「現状に満足せず、わくわくして働ける人の割合を増やしていきたい」と西社長は前を見据えている。制度を整えるだけでなく、会社の土台を一から作り直し、本音の対話を続けた結果、同社は改革を実現した。変化に耐えうる土台を持つ会社の強さを体現していると言えるだろう。
CASE STUDY働き方改革のポイント
経営理念を制定し社員に浸透を図る
- 効果
- 経営理念を制定し、社員に浸透を図るためコミュニケーションツールで社長と社員で対話。対話の内容は文書化され「西精工フィロソフィー」となり、朝礼で共有されている。リーダーシップ勉強会でも「働きがい」「生きがい」を伝える講義が行われている。
人事評価と給与体系の見直し
- 効果
- 社員に働きがいを感じてもらうため、人事評価と給与体系の見直しを行った。評価項目を「役割」「スキル」「目標管理」の3項目で設定し、評価基準の見える化を図った。それにより、何を頑張れば認められるかが明確になり、社員の働きがいに繋がっている。また、目標管理で問う目標についてはそれぞれが上長と対話をして3つ設定している。
社員同士のかかわり合いにより働きやすい職場へ
- 効果
- 仕事のみならず、家族参画OKのボランティア、サマーパーティー、バーベキュー大会、忘年会などを通じて互いを知り、相手を思いやる気持ちが生まれ、働きやすい職場に結びついた。休暇制度など、社員のニーズに合わせた変化が進んでいる。
COMPANY DATA企業データ
先進技術と高品質で暮らしの明日を見つめるファインパーツ総合メーカー
西精工株式会社
代表取締役社長:西泰宏
本社:徳島県徳島市
従業員数:240名(2020年12月現在)
設立:1923年4月
資本金:3,000万円
事業内容:ナットを中心としたファインパーツの製造・販売(自動車、家電・弱電、住宅設備機械、建設機械、ゲーム機)
経営者略歴
西泰宏(にし・やすひろ) 1963年徳島県生まれ。1988年に神奈川大学卒業後、東京の広告代理店に入社。退職後、1998年に西精工に入社し、2008年に代表取締役社長就任。