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株式会社高洋商会

業種

製造業

地域

近畿

従業員数

50〜99人

File.70

社員が「知ること」から始まる、ものづくり企業の意識改革 「自分のために」が「会社のために」を実感できる会社づくりに挑戦中-高洋商会の場合-

生産性の向上による処遇改善

2021.10.29

株式会社高洋商会

 高洋商会は、2015年「大阪ものづくり優良企業賞」を受賞。2021年には、近畿経済産業局の「関西ものづくり新撰2021」に採択されるなど、関西地域を牽引し、全国へも販路を広げるものづくり企業のひとつだ。同社は1981年創業。主要製品は、現代の構造物に欠かせない素材であるコンクリートを流し込み、形づくる「型枠」だ。
 山川広司社長の座右の銘「正直であれ」を地でいく、型枠全般の職人集団として、誠実な姿勢と信頼の技術力でこれまで多くの仕事に携わってきた。型枠製造を含め、土木・建築業界は、職人たちが磨き上げてきた高い技術で成り立っている側面がある。強いこだわりを持ち、研ぎ澄まされた集中力で最高のものを自らの手で作り上げていく。日本の発展は多くの職人たちに支えられてきたと言っても過言ではない。   
 一方で「融通が利かず頑固」といった職人気質は、時に価値観が多様化する現代の働き方に合わないといった弊害もある。いかに職人たちの技術力を活かしながら、社員と企業が共に成長することができるのか。山川社長が息子である耕平さんに「一緒に働こう」と声を掛けたことが、会社変革の第一歩となった。

昔ながらの働き方を、少しずつ改善

 常務の山川耕平さんが、同社に入社したのは8年前。前職で人材ビジネスに携わっていたこともあり、外から見た高洋商会は「良くも悪くも個人経営の会社だ」と感じていたという。休日が極端に少なく、繁閑で給与が変動する日給制。旧来から続く業界の働き方が、そのまま同社の「当たり前」として定着していた。山川社長は「製造は納期のある仕事。忙しければ、休みなく働くことが当然の時代だった」と振り返る。就業カレンダーもなく、休日は日曜のみ。土曜や祝日の出勤の有無は前日の17時になるまでわからない、不安定な勤務形態が常態化していた。

 業界全体における働き方の問題は、同社では社員、特に若手の定着率の低さとして現れた。ある年、採用して2年の内に退職者が8割に上ったことで危機感を募らせた。このままの体制では、未来に繋がる人材育成が難しい。「より働きやすく、力を発揮できるように、そして不公平がないように」(山川常務)を念頭に、常務が中心となり少しずつ雇用や職場環境の改善に取り組み始めた。

「息子が入って、社内の雰囲気が明らかに変わってきている」と話す山川広司社長

 営業部西日本担当部長の近藤康直さんは入社26年目。製造の木工部を経て、現在は営業部に所属している。休日出勤が当たり前だった頃を知る社員の一人だ。かつての建築現場は土曜に加え、祝日も作業をするところがほとんど。直接のやりとりがなくても、現場の進捗にあわせて営業職も出勤していたという。一方、製造部も作業に追われてくると、日曜・祝日も関係なく働いていた。ベテラン社員たちに「休みも出社するのが当たり前」の意識が強く残っていたことも原因といえる。

 社員の意識が変わるきっかけとなったのは、年間の就業日や休日を記載した就業カレンダーを社員に配布したことだ。会社が定める休日を見える化したことで、無駄な出勤が抑えられていった。同時に各部門の役割分担を明確にし、不公平感の軽減にも努めた。休日数を徐々に増やし、2021年度の年間休日数は105日。2013年当時の2倍を超える水準だ。

 当初は、近藤さんも休日に休むことに罪悪感があったが、製造部のリーダーや工場長が、現場の管理を一元的に担うことで、休日などに出社する必要がなくなっていった。オンとオフが明確になったことで、体を休められ、高い集中力で業務に取り組めていることに気づいたという。「メリハリを持って仕事ができています」と話す。削減できた休日出勤手当を原資に給与をアップするとともに、製造部は日給制から月給制に転換。給与が安定したことで、離職率も大幅に改善した。それに伴い、社員の年齢構成も大きく変わった。常務が入社した2013年の平均年齢は、50歳を越えていたが、現在はおよそ30歳代。社員構成も20歳から30代半ばの若手が半数、50代半ばからのベテランが半数となり、バランスが取れてきた。

「形に残るのがものづくりの魅力」と話す近藤康直さん。休日は担当した建造物を見てまわり、子どもに自慢していると笑う

全部署研修で、部署を越えた仲間意識を高める

 自身の仕事を突き詰め、その道のエキスパートとなっているのが職人だ。「この人しかできない」仕事は、高品質のものづくりにも繋がる。しかし、「一人ひとつの役割では、その人が休むと作業が止まる」(山川常務)ことを意味する。ひいては生産性も上がらない。それも「休日出勤に拍車を掛けていた原因でした」と山川社長は話す。

 そこで同社は、繁忙部署への応援体制の確立を目標に、オールマイティ型の多能工化を推進。「仕事は見て覚えるもの」といった、手取り足取りは教えない職人気質の慣習をやめ、さまざまな研修を実施。「教える」空気を少しずつ醸成させ、若手の育成に取り組んでいる。

 現在は「1年目の社員ができるレベルの仕事は、部署に関わらず全員が対応できるようになった」と山川常務。初めは定着しづらかったというが、若手の学ぼうとする熱い姿勢に、ベテラン社員たちも刺激を受け始める。効率的な技術継承を進めながら、仕事を手分けすることに成功しつつある。さらに新入社員には全部署研修を導入。入社5年目となる鉄工部の中村将也さんは、職人になる夢を叶えるべく、ものづくりに携われる同社に入社を決めた。全部署研修については、「2ヵ月かけてすべての現場に入れたことで、実際の仕事内容が理解でき、部署ごとの雰囲気の違いもわかった」とメリットを挙げる。

 これまでは部署間の交流もほとんどなく、職人気質の意識が壁となり、教育体制も整っていなかった。現在は「わからないことや困ったことがあれば、先輩が丁寧に指導してくれるので心強いです」と中村さん。若手でもベテランの仕事を手伝えるようになったことで、職人として自身のステップアップにも繋がっているという。また鉄工・木工など製造部の連携や社員間のコミュニケーションの活性化といった面でも、良い効果を生み出している。鉄工で使用する安全器具や治具を木工で制作、また木工の機械を鉄工が作るなど「お互いを補完しあう仲間意識が徐々に芽生えてきた」と山川常務は語る。

「新人が入ってきたら、今度は自分がしっかり教えたい」と鉄工部の中村将也さん。仕事は教えるものという意識が根付きつつある

会社の目標やビジョンを「知ってもらう」取り組み

 「3S(整理・整頓・清掃)活動」も、同社の働き方改革で有効な取組だった。この基本が機能せず、工場内が常に雑然としていた頃は、本来の業務でないことに時間が取られ、長時間労働の原因のひとつにもなっていた。長年会社を支えてきた仕事の進め方や体制を改善し、ベテラン社員たちの意識改革を行うことは時間がかかる。山川常務は、父である社長も含め、今も対話を重ねながら少しずつ取り組んでいる途中だという。

 これまでの経験上、「福利厚生といった、会社の制度がしっかり周知されていなければ、社員はその制度を利用できない」(山川常務)ことを実感してきた。現場で働く社員の理解を得るためには、会社のビジョンや取組を「知ってもらうこと」が重要だと力説する。製造担当の社員は工場の作業だけで、自分たちの仕事がどのように世の中で役立っているかを実感しにくい。現場への同行や展示会の参加で、仕事に対するやりがいを感じてもらう取り組みも続けている。

 高洋商会は「互いの成長を喜び、創意工夫と新たな価値の創造で夢に挑戦する」を経営理念に掲げる。高いクオリティを誇る職人集団として、会社という組織をも創りあげ、邁進することが目標だ。山川常務は、「社員が誇りに思えるような会社は、与えられるものではなく、共に創っていくもの」とした上で、「社員にとって、これからが楽しみな会社になれるよう、さまざまな改革に挑戦していきたい」と意気込む。

「社員が夢、誇りを持てる職場づくりは、人生かけても不足はない仕事」と山川常務は笑顔で語る

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

休日出勤を抑え、年間休日を2倍に

効果
工場や現場の進捗に左右され、土曜や祝日の出勤が常態化。年間の就業日や休日を記載した就業カレンダーを全社員に配布し、無駄な出勤を抑える。休日出勤、長時間労働が当たり前の労働環境の改善について、社員に根気よく説明。休日数を徐々に増やし、2021年度の年間休日数は105日に。2013年と比較し、2倍を超える水準を達成。
取組2

日給制を月給制に、離職率が大幅に改善

効果
無駄な休日出勤手当を原資に、日給制を月給制に転換。給与が安定したことで、社員が将来の見通しを立てやすくなり、離職率が改善。特に若手の定着率が増し、企業の若返りを促進。現在の平均年齢は30代。20歳から30代半ばの若手が半数、50代半ばからのベテランが半数と、バランスが取れた人員構成に。
取組3

研修を実施し、職場の「教える」空気を醸成

効果
旧来の「仕事は見て覚える」職人気質の形式から、新入社員の全部署研修を含めた教育体制を確立。技術継承を継続してスムーズに進められる雰囲気づくりも。社員間のコミュニケーションも活発化し、チームワーク、仲間意識が徐々に芽生えている。

COMPANY DATA企業データ

コンクリート型枠の製造・販売から施工計画・設計を一貫して行う

株式会社高洋商会

代表取締役社長:山川広司
本社:大阪府岸和田市
従業員数:51名(2021年7月現在)
設立:1987年3月
資本金:1000万円
事業内容:コンクリート型枠・支保工の企画・製造・販売・施工

経営者略歴

山川広司(やまかわ・ひろし)
1950年高知県生まれ。1981年高洋商会創業。社名は出身地の高知県と太平洋にちなむ。1987年法人化。1995年高洋商会オリジナル工法の開発をスタート。2008年透明型枠「クリアーフォーム(旧・ミエールフォーム)」販売開始。販路を全国に拡大。2016年一般建設業許可取得に伴い、現場における自社製品の組立代行開始。2020年大阪岸和田丘陵地区に新工場移転・統合。経済産業省「地域未来牽引企業」に認定。