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社会福祉法人 幸知会 トータスホーム
医療・福祉
関東
100〜300人
File.81
年間休日156日の実現で人材不足を解消 ―老人介護サービス事業を展開する社会福祉法人「幸知会」の場合―
2021.11.01
幸知会は特別養護老人ホーム「トータスホーム」の運営、ショートステイ事業、デイサービスセンターをはじめとする、施設・在宅サービスに特化した介護福祉事業を主に展開している。介護業界では人材が定着しにくく、慢性的な人手不足に悩まされている事業所が珍しくない。大きな原因は残業の多さ、休日が取得しにくいことだった。幸知会では、夜勤がある施設部門で週休3日制導入に踏み切り、年間休日156日を実現。その結果、離職率は1.2%程度と業界平均15.4%を下回り、人材不足を解消。「長く働き続けられる」職場環境を達成している。
週休3日制の導入で離職率が低下、応募も増えた
高齢者の入浴や食事、排泄介助など生活全般のケアを行う介護の仕事には、職員の体力面、精神面でのきつさに加え、介護施設の24時間対応による労働時間の長さや残業の多さという問題がある。公益財団法人介護労働安定センターの「令和2年度年事業所における介護労働実態調査」によると訪問介護員・介護職員の離職率は14.9%で、訪問介護員・サービス提供責任者・介護職員の勤続1年未満の離職率は35.6%、1年以上3年未満の離職率は24.8%に及ぶ。介護という専門性の高い職種であるにも関わらず、十分なスキルを身に着け、自分自身の裁量で仕事をこなすようになるまでに、採用した新人が育たたないということだ。
特別養護老人ホーム「トータスホーム」本部長の山口昭夫さんは「新人が定着せず、ベテラン職員がいない結果、新人が新人を教えるという状態に陥っていた」と話す。そのうえ、新人の退職が人手不足を招き、募集をかけてもなかなか応募がこなかった。「人材を集め、定着させるにはどうすればいいのだろう?」
その答えは職場環境の大幅改善にあった。介護サービスという職種では、老人ホームやデイサービスなど施設の定員を超えての利用者募集はできない。それは、売上・利益には限度があるということであり、職員の給与を上げることは容易ではない。昇給以外に離職率を下げ、働き続けたいと思わせる職場にするには環境改善が最善の手段であると考えたのだった。まず、残業を削減し、休日を増やし、肉体的にも精神的にも、しっかりリフレッシュできる環境を整えることが、最初にすべき改善との結論に達した。週休3日制、1日10時間勤務は社会保険労務士との打ち合わせから浮上した案だった。この制度を職場改善策として職員に提案。話し合いを重ね、約1年間の準備期間を経て、2018年1月から導入に踏み切った。
それまでの8時間労働から2時間労働時間が増えることに関して体力的、精神的に不安はなかったのだろうか?
早瀬係長は「残業で10時間働いたこともあるし、定時に退社しようと思っても事後処理などでなかなか帰宅できませんでした。ですから10時間労働に抵抗感はありませんでした」
また、早瀬さんは妻も同じ職場に勤務している。「週休3日制なので私が3日、妻も3日の休みが取れます。すると6日間は私か、妻のどちらかが在宅していることになります。私たちには未就学児がいるのですが、たとえば子供が熱を出した時などどちらかが、慌てて休暇を取る必要もなく看病できます。また、実家が農家なので農繁期にも農業の手伝いができます。友人との交流もしやすくなり、仕事のストレスが激減しました」
10時間勤務は、介護の現場にも余裕が生まれたと山口さん。「介護施設では朝夕の食事の時間がもっとも人手を要する時間帯です。10時間労働にすると夜勤、日勤のシフトが組みやすく人手が要る時間帯に人員を多く配置するように組めるのです。以前は少ないときには2人だったのが、現在は5人が介助に当たれます。ですから、余裕を持ってサービスができるようになりました」
この余裕は職員同士、職員と利用者との人間関係を円滑にする効果ももたらした。職員ひとりひとりの表情が柔らかくなったという。週休3日制、1日10時間労働により残業時間ゼロを実現、プライベートな時間が充実したとの感想を述べている。さらに週休3日制を募集要項に明示し人員募集をかけると、以前は月1名ほどだった応募が多数集まるようになり、離職率も1.2%程度と業界平均を下回る結果となった。
週休3日制導入は施設部門だけでなく、幸知会の他の事業所への効果をもたらした。幸知会が運営する「トータスフォレスト」では指導員による運動機能回復のためのリハビリ、ストレッチ、歩行訓練などが行われているが、指導員も高齢者も楽しんで体を動かしている様子が伺える。特に指導員の表情と声は皆、明るい。
育児休業、キャリアパスで働き続けられる環境を達成
一般に女性の離職の原因として挙げられるのが「結婚・妊娠・出産・育児」である。女性スタッフが多い介護職では、出産後も安心して働ける環境整備も課題になっている。トータスホーム事務長角田竜司さんは「職場内には託児所も開設しています。また、女性の育児休業の取得は当然ですが、現在は男性に育児休業を取得するようすすめています。介護現場では連休が取りにくいので、2回に分けて取得ができるよう調整しています。たとえば10日間なら、5日間ずつ2回に分けるという方法です。今まで以上に男性も育休を取りやすく、子育てに参加しやすい環境を整えていきます」
トータスフォレストに勤務するケアマネージャー石川聡久さんは勤務する職場に開設された保育園に子供を預け、働いている。「子供の送り迎えもでき、妻の負担が大きく軽減されました。職場に保育園があるので子供の状態が常に確認できるのは何より安心です」このような制度が整備されたことで育児休業後の復職率は100%にも達している。
高齢者の身体をケアする介護職では常にサービスの向上が求められる。職員の質の安定と向上を目指し、設けられているのがキャリアパス制度だ。この制度では介護技術や知識などの熟練度を図る試験や面接を定期的に行い、キャリアアップを図っていく。また、介護福祉士や介護支援専門員などの資格取得にかかる費用の補助も行い、一人ひとりのスキルアップをサポートしている。
介護の仕事にはチームワークが必要とされる。そこで社内交流の機会のひとつとして毎年職員旅行を行ってきた。職員旅行ではグループに分かれて行動し、夜に集合するというスタイルだ。「他部署の者同士でグループを構成するため、通常の勤務では顔を合わせない職員との交流を深めたり、新人がベテランと親しく話ができたりする絶好の機会になっています。横のつながりが密になり、人間関係が円滑になると信頼関係も生まれるんです。仕事に慣れない新人を指導する際も、ヘンな気遣いをせず、早め早めにきちんと指導できています」と事務長の角田さんは話す。
週休3日制をはじめ育児休業を取得しやすい環境づくり、キャリアパス制度などの導入と職員同士のコミュニケーションが取れる機会を行事で作ることにより、「長く働き続けられる環境」を達成したのである。
施設長角田君江さんは「現場で働く人たちの声を聞き、働きやすい環境を今後も追求していきたいと思います。それがサービス向上にもなり、地域への貢献度を高めていくことにも繋がるはずです」と断言する。
CASE STUDY働き方改革のポイント
週休3日制10時間労働を導入
- 効果
- 職員が心身ともにリフレッシュできる休みが取れるようになり、プライベートも充実した。離職率が下がり、人材が定着。仕事に余裕が生まれ、職員の表情が明るくなった。
職場内保育園の開設
- 効果
- 保育所が職場にあることで安心して働ける環境が整った。育休後の復職率は100%である。
キャリアパス制度の導入・行事の積極開催
- 効果
- 安定したサービスを利用者に提供できるようになった。職員の技術や知識取得への学習意欲も高まる。行事により職員間のコミュニケーションが密になり、信頼関係が深まった
COMPANY DATA企業データ
社会福祉法人 幸知会 トータスホーム
施設長:角田君江
本社:栃木県河内郡上三川町
従業員数:160名(2021年7月現在)
設立:1995年10月
事業内容:老人介護サービス9事業、障がい福祉事業8事業、保育事業2事業
経営者略歴
施設長/角田君江(かくた・きみえ)
結婚後、家業の土木建築業事務員として勤務。1992年、母が白血病となり、在宅での長期闘病を経て、奇跡的に回復。このような環境から、老人福祉介護、地域貢献に関心を抱く。母の願いでもあった社会福祉法人を設立し、特別養護老人ホームを開設する。