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社会福祉法人翼福祉会 草薙ふたばこども園

業種

医療・福祉

地域

中部

従業員数

50〜99人

File.98

複数担任制や、出産・育児と仕事との両立支援で継続勤務を図る ―幼保連携型認定こども園「草薙ふたばこども園」の場合―

時間外労働の削減

2022.01.24

社会福祉法人翼福祉会 草薙ふたばこども園

 厚生労働省『保育士の有効求人倍率の推移(全国)』によると2021年7月の保育士の有効求人倍率は2.29倍、全職種平均が1.1倍であるのに対し、約2倍の高い水準を示している。この数字から保育施設は人材の確保に苦慮していることがわかる。草薙ふたばこども園も人手不足の悩みを抱えていた。市川千暁園長は人手不足を解消すべく、複数担任制や出産・育児と仕事との両立支援を充実させるなどさまざまな改革を行った。現在では平均勤続年数は11年以上、2020年の年間平均有給消化日数は15.18日、2021年の4~7月の3か月の平均有給取得日数は4.7日である。90%以上の職員が結婚・出産後も仕事を続けており、3児の母や4児の母で育児と両立しながら働いている職員もいる。園長が進める働き方改革が成果を上げた結果と言えるだろう。

短時間勤務制、不妊治療休暇を導入など育児支援制度を整備

 草薙ふたばこども園は静岡県立美術館や静岡県立図書館、静岡県立大学などが建ち並ぶ文教地区にある。1977年、第二ふたば保育園として開園し、2015年には幼保連携型認定こども園への移行とともに名称も変更し、草薙ふたばこども園となった。現在0歳児から5歳児まで184名が登園し、保育教諭、管理栄養士、調理師、看護師、事務・用務など合わせて50名の職員が教育・保育に当たる。現状を見た限り、人材不足とは思えない。

 しかし、「数年前まで、保育園やこども園の増加もあり、保育教諭を募集してもなかなか人材が集まらないという状況でした」と市川園長は話す。

市川千暁園長は家庭では2児の母。地域に根差した教育・保育を実践している。

 「保育の業界の仕事は重労働で休暇が取りにくいケースも多くあった。さらに保育者に求められる仕事も年々増加し、責任も重いです。その為、結婚や出産を機に離職する人も多く、定着しにくい印象があります。そして、それが人材不足の一因かなと推測し、休暇がきちんと取れ、妊娠、出産して一時的に職を離れても復職しやすく、子育てをしながらも無理なく働いていける環境・制度を整える必要があると思いました」

 そこで市川園長は出産・育児との両立支援制度の充実を図った。育児休業は以前からあり取得率は100%だが、育児休業明けの働き方を変えた。

 短時間勤務制度で働くか、早番や遅番のシフト制で働くのではなく例えば8時30分から17時15分というような固定時間で働くかを選択できるようにした。この5年間で育児休業取得人数が10人おり、そのうち8人が短時間勤務を選択。短時間勤務の職員には「子育てしながら働きやすい」と好評だ。

 2019年には不妊治療休暇を導入した。不妊治療を受けている職員が年次有給休暇を全て消化した場合でも、15日間の有給の特別休暇が付与される制度だ。この制度は1人目だけでなく2人目、3人目と何人目の子供であろうと関係なく、治療を受ける際に適用される。その結果、その休暇の利用を検討する保育教諭が何名か現れた。

 

 「制度を整えるだけでなく、休みを取得しやすい雰囲気を作ることが大切だと思っています。子育て中の保育教諭には自分の子供の学校行事に出席できるよう、管理職が積極的に声をかけていくなど、ちょっとした気遣いで休みを取りやすい雰囲気が出来上がるように努力をしています」と市川園長。

村岡貴善さんは乳児部指導保育教諭。乳児部全体を統括し、園全体を見渡し細部にまで気を配る

 

 村岡貴善さんは家庭では1児の父。乳児部指導保育教諭として乳児部全体を統括し、職員が楽しく保育を行えるように環境を整えている。

「私が当園に就職したのは2005年でその当時はまだ残業の多さや年次有給休暇取得率の低さは当たり前の時代でした」と、村岡さん。しかし、少しずつ業務内容の見直しを図って残業の軽減や率先して年次有給休暇を取得すること、後輩が年年有給休暇を取りやすい環境にしようと意識して「現在では、職員一人一人がのびのびと業務にあたり、楽しく仕事を行い、また年次有給休暇の取得もしやすくなり、働きやすいです」と村岡さんは話す。

 

 2020年に第一子が生まれ、5か月間の育児休業を取得した。「取得する際、園全体に周知して下さり、スムーズに休業に入ることが出来ました。また、復帰してから温かく迎え入れて下さり、負い目を感じず、楽しく仕事が出来ています」この体験を得て、自分の知識の広がり、保護者や後輩に経験を踏まえたアドバイスが出来るようになったと村岡さんは感じているそうだ。

 このような制度が整った結果、結婚・出産後も90%以上の職員が仕事を続けている。

複数担任制、良好な人間関係構築など、より良い環境を作りに努める

 園では安全性の確保を第一に考えつつ保育教諭の負担軽減も視野におき、複数担任制を採用している。たとえば、例えば0歳児には保育教諭が3人に1人いる他、看護師も手の空いている時には入っている。3歳児は2人で担当できるところを4人の正規職員で担当しており、4・5歳児も各35人を複数担当制としている。

 新規採用の際には必ず2人以上を採用し、採用では人間性を重視している。先輩に話しにくい悩みや時にはグチなども、気を遣わずに話せる同期が必要という考えからだ。また、新人が保護者と応対する際には必ず先輩の保育教諭が傍につき、言葉の足りないところがあればフォローする。

 「不安や不満を一人で抱え、悩むのではなく、周囲に相談しやすい環境、風通しのよい人間関係を作るように努力し、挨拶を含め、1日1回は職員と話すように努めています」と市川園長。それが職員のメンタルヘルスを良好に保っている。

保育士同士のチームワークが良く、毎日が楽しいと言う和田夏美さん

 2021年4月に新規保育教諭として入職した和田夏美さんは「当園で2週間の保育実習を受けて頂いた際、雰囲気が良いのはもちろん、複数の保育教諭がクラスを担当するというチーム保育にも魅力を感じ、この場所で働きたいと強く思いました」と採用に応募した動機を話す。「実際に働いてみると複数人で子ども達と関わる為、子ども1人ひとりに向き合う時間ができ、その子に応じた援助や声掛けをすることが出来ます。また、先輩方にも相談しやすくそれに対して先輩方も丁寧に指導してくださいます。さらに年次有給休暇を多くの先輩方が取得している姿を見て、とても働きやすい環境だなと感じました。いずれ結婚しても働き続けたいと思っています」。

 

 和田さん同様、他の保育教諭も園全体でチームワークが取れ、全員が協力して保育やさまざまな行事にあたっているのが感じられると言う。

 「現在は働きやすい環境がほぼ出来上がっていますが、この環境を維持することが難しいのです」と市川園長。

 そこで園長は年に2回、賞与支給時に職員一人ひとりと面接を行う。

 「長ければ一人30分はかかります。自己評価を聞き、悩み、不安や不満に思っていること、改善してほしいことを自由に話してもらいます。このような機会を設けないと組織の課題が明らかになりません。常に問題点を探り、フォローしていく。小さなことでも改善すべき点をそのままにしているとすぐに問題が表面化し、環境は悪化してしまいます」。

 働きやすさの維持に心を配っている結果、平均勤続年数は約11年以上。また、2020年度の年次有給休暇消化日数は15.18日であった。2019年10月には若者の採用・育成に積極的に取り組み、雇用状況が優良な企業に与えられる「ユースエール認定」を受けた。この認定を受けるとハローワークなどで認定企業として、応募者に告知されるので若い人材の応募増が期待できる。

 人材を集めるには園の存在、働く環境の良さをアピールすることが大切と市川園長は考えている。そこで、新卒者に対して開かれる企業説明会などには機会があれば必ず参加、大学や短期大学にも出向く。その際には園長自身が作成したパンフレットを配布する。

働きやすい環境であることがパンフレットからも伝わる

 パンフレットはA4サイズ6枚でその表裏に施設概要や理念、勤務条件、さらには職員に園の長所を聞いたアンケートや職員からのメッセージも掲載されている。紙面には「抜群のチームワーク」、「年休の取りやすさ」をはじめ、「毎日が楽しい」、「充実している」、「みんな仲がいい」といったコメントが並ぶ。これは実際に職員にアンケートをとって作成したものだという。

 確かに、園を訪ねると職員同士、明るく溌剌な挨拶はもちろん、自然に声を掛け合い、協力し合う姿を目の当たりにできる。園長や管理職に対する接し方も礼儀は守りながらも親しみが感じられ、信頼関係が築かれていると実感できる。

職員会議も和やかな雰囲気で進んでいく

 

 働きやすい環境は制度を整えたら終わりではない。それを維持する日々の努力や工夫、そして職員全員の協力も必要不可欠なのだと草薙ふたばこども園は教えてくれる。市川園長は「育児の次に当たる家族問題のうちの1つは介護。今後は介護等に関して有給休暇を取りやすくするだけではなく、何か制度を考えるなど、工夫していきたい」と話す。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

年次有給休暇・育児休業・短時間勤務が取りやすい環境、不妊治療休暇の設定で人材の定着率を高める

効果
上司が年次有給休暇を積極的に取得し、後輩にも取得するように促す。また、上司が率先して育児休業や短時間勤務を利用し、後輩が取得しやすい環境づくりをしている。不妊治療休暇として15日間の有給の特別休暇を付与。結婚・出産後も働き続けられる環境を整備。離職率は低く、平均勤続年数は約11年と定着している。
取組2

複数担任制や働きやすい環境維持のため園長との直接面接を実施

効果
複数担任制で新人や経験の浅い保育士でも安心して保育に当たることができる。年に2回程ある園長との面接で職場の改善点を聞き、対処することで良好な職場環境を保っている。その他、園長、副園長や主幹などに言い易い雰囲気ができている。その結果、経験の浅い職員の定着に繋がり、2019年よりユースエール認定を受けている。
取組3

人材募集では園の長所を積極的にアピール

効果
園長自身が作成したパンフレットを大学・短大などに配布し、新卒者向けの説明会にも積極的に参加。勤務条件だけでなく働く環境の良さをアピール。人材確保に繋がっている

COMPANY DATA企業データ

地域に開かれ、愛され、信頼される施設を目指す

社会福祉法人翼福祉会 草薙ふたばこども園

園長:市川千暁
所在地:静岡県静岡市
職員数:50名(2021年4月現在)
設立:1977年4月
事業内容:地域子育て拠点、一時預かり事業、幼保連携型認定こども園

経営者略歴

市川千暁(いちかわ・ちあき) 日本社会事業大学院博士前期課程卒業。神奈川県の保育園、東京都の大学(助教)を経て現職へ。2020年4月、園長に就任。社会福祉士・精神保健福祉士・保育士・幼稚園教諭1種を取得。