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株式会社パワーネット
その他
中国・四国
10〜29人
File.12
「安心して休める会社へ」全業務に非常時マニュアル ―派遣事業 パワーネットの場合―
2020.01.24
経営危機から社員重視の経営へ。派遣会社の「パワーネット」(香川県丸亀市)は、子育て社員を守り抜く戦いの中で、労働環境の改善を進めてきた。その手法は具体的な仕事の進め方の詳細にまで及び、従業員13人の仕事にはスキがない。日々磨き上げてきたノウハウで、家庭と仕事を両立できる職場体制を確立している。
社員は全員女性、家庭との両立実現へお互い支え合う
ある日、給与を計算する社員が、突如、当日になって休暇を申請した。「子どもが急病で入院し、1週間は出社できない」とのことだった。月の下旬で、給与計算が大詰めを迎えていた。職場の社員だけではなく、派遣先で働く社員の分も合わせた作業は、まだ手つかずだった。
谷渕陽子社長は迷わず「分かった。しっかり看病してあげて」と告げて、連絡してきた社員を励まし、大急ぎで、他の社員と協力しながら数十人分の給与計算にとりかかった。担当者不在で給与計算をするのは、社長も社員も未知の経験だった。
しかしパワーネットは、2015年に仕事をすべてマニュアル化していた。担当社員が残したマニュアルを読み込みながら、手が空いている社員が総出で、給与計算を進めた。必死の取り組みの結果、何とか締め切りまでに作業を終えることができた。谷渕社長は、その時の社員の様子を振り返り「皆安心した表情だった」と話す。それは「マニュアルさえあれば私も休める」という表情だったという。一義的には看病をする同僚のサポートだったが、皆が自分の仕事もこうして支えてもらえる、必要な時は安心して休めることを実感した。
社員(派遣を除く)は全員女性だ。家庭と仕事の両立ができるかどうかは、大事な問題だった。特に幼い子どもを抱えていると、急に仕事を休まないとならなくなる時もある。「私が休んだら迷惑がかからないだろうか」という気持ちを心のどこかに抱えていた。非常時に備えて作ったマニュアルは、社員が安心して働け、そして休める心の支えとして受け継がれている。
書類の置き場所を全机で共通化、朝イチで当日予定を共有
2008~09年、経済危機「リーマン・ショック」の影響で、取引先が急減し、パワーネットの会社存続が危ぶまれた時期があった。取引先は中小企業ばかりで、経営環境の悪化に敏感に反応し、人員削減が進んでいったという。パワーネットも先行きが見えず、廃業も考え始めたころ、社員の「私は今まで何のために働いてきたんだろう」という声が聞こえてきたという。谷渕社長は「こうした社員の真剣な問いかけに突き動かされ、社員の生活を守る会社にしなくては」と、気持ちを引き締め、経営の抜本改革に踏み切った。
まずは経営の効率化だ。マニュアル作成は、業務がストップしないようにするために始めた。陳腐化しないように、気づいた社員が毎日更新するのも大切な作業だ。このほか、書類の置き場所、引き出しの中の配置を共通化し、誰でもいつでも、同僚が進めている仕事を把握し、必要な時にその書類を引き継げるような態勢を徹底して作り上げた。
更には、時間管理(タイムマネジメント)の徹底を呼びかけた。朝の始業前の打ち合わせ時に、各社員に1日の日程をすべて書き出させる。「9時から10時に伝票20枚入力」など、退社時までのスケジュールを立てる。目標達成が難しいと判断した時には、チーム長に相談し、応援を頼む。この仕組みによって、退社時までに目標としていた仕事量をすべて終わらせることを習慣づけたという。事業の見える化、効率化は、安心して休める職場を守る戦いだった。
こうした取り組みは、口コミで伝わり、「パワーネットで派遣社員になれば、私でも働ける」という人が、相次いで問い合わせてくるようになり、経営危機で落ち込んだ業績の回復に弾みをつけていったという。
売上高2年で1.8倍、「残業増やさず事業拡大」の道へ
2014年に入社した青山真由美さんは、前職では午後10時ごろに帰宅していたので、家族で食事ができなかったが、パワーネットに転職し、今では母親と一緒に夕食の支度ができる時間に帰れるようになったという。時間に余裕ができただけでなく、効率を意識するタイムマネジメントの実践で、「毎日成長している実感がある」と話す。社内での定例食事会では「毎回社長の手料理が楽しみ」といい、食事を通じた社員同士の情報交換で、理解し合い、助け合う雰囲気も気に入っているという。
2000年に入社した谷渕ゆきこさんは、「タイムマネジメントを通じて、仕事の優先順位、目指すゴールを強く意識するようになった」と話す。売り上げにつながる業務を優先するなど、仕事にメリハリを付けることを身につけていったという。残業がない職場なので、子育てや家事の時間をしっかりと確保できる。仕事は一切持ち帰らず、夕食時にはビールを楽しむという。最近は資格取得のための勉強も始めるなど、充実した生活を過ごしている。
こうした事業効率化と労働負担の改善は、経営危機を社内一丸となって乗り切り、積み上げてきた財産だ。その財産を失わないように、社内では基本事項を壁いっぱいに貼り付けて、考え方を日々確認しているという。取組の成果は、直近2年で売上高が1.8倍に拡大するという形で実を結び始めている。谷渕社長は「売り上げを上げるのなら残業を増やせば良い。でも私たちは家庭と仕事の両立という使命もあり、残業を増やさずに事業を拡大するという道を進んでいる」と力強く語ってくれた。
CASE STUDY働き方改革のポイント
全業務のマニュアル化
- 効果
- 日常業務の大半は繰り返しで成り立っているとの考えから、全業務のマニュアル化を2015年に完成させた。いつ担当社員が休んでも、他の社員がマニュアルを参照しながら代行できるように、マニュアルは日々更新されている。
全社員の机で資料の置き方を統一
- 効果
- 会社の書庫にある資料類は、すべて分類されて置かれているほか、全社員の作業机の資料の配置や引き出しの中の書類の分類、保管位置も統一している。社員が必要な書類をいつでも速やかに取り出すことができる。
時間管理(タイムマネジメント)の徹底
- 効果
- 毎朝、全社員が自分の1日の仕事計画を書き出す。優先順位の高い仕事を選んで計画を立てることから、不急の仕事と重要な仕事の区分けを意識するようになる。不測の事態で仕事を完了できない場合は、他の余裕がある社員の協力を得て、会社全体として退社時間までに目標を完了させる習慣を付けさせる。
COMPANY DATA企業データ
株式会社パワーネット
代表取締役社長:谷渕陽子
本社:香川県丸亀市
従業員数:13名
設立:1996年
資本金:1,700万円
事業内容:正社員紹介事業、社員派遣事業のほか、リーダー研修・生産性向上研修事業、業務を効率化するアウトソーシング事業を中心に展開している。
経営者略歴
谷渕陽子(たにぶち・ようこ) 香川県丸亀市出身。産業能率大学情報マネジメント学部現代マネジメント学科卒業。香川県職員退職後、香川短期大学講師、穴吹情報専門学校講師を経て、「教育を活かした人財育成会社」、株式会社パワーネットを設立。7割を超える子育て社員で競争力の高い組織を作り上げた。NPO法人働く女性研究会の活動、善通寺市中小企業振興協議会の委員などを務める。2015年2月には、経済産業省より「がんばる中小企業・小規模事業者300社」に選定された。