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株式会社島袋
卸売業,小売業
九州・沖縄
100〜300人
File.25
働きやすい職場づくりでサービスの質向上 ―金物・工具卸「島袋」の場合―
2020.09.10
午前9時。床面積2700坪の広大な倉庫内では、社員らが忙しそうに動き回っていた。小売店や建設業者から入った注文を午前中のうちに準備して、午後からは担当者が直接納品に赴く。現場の社員は「毎日午前中が勝負です」と口をそろえる。
1951(昭和26)年創業の「島袋」は、沖縄県浦添市を拠点に金物・工具などの卸を行う企業だ。3万点を超えるという圧倒的な品ぞろえに、場合によっては値札貼りまで対応する細やかなサービス。取引先からは厚い信頼を獲得している。一方で、かつては属人化している仕事が多く、また残業が常態化していたという。「コツコツ進めてきた」(同社幹部)という「働き方改革」の取り組みが奏功し、属人化の解消、そして残業時間の削減に成功した。
現場の人数を増やして負担を減らす
「以前は仕事がハードだった。残業もあり、家族との時間も今より少なかったように思う」。入社14年目で、現在は営業部主任を務める宜保(ぎぼ)綾太(りょうた)さんはそう振り返る。
取引先は、小売業者も多い。島袋の勤務時間は、休憩をはさんで午前8時~午後5時となっているが、取引先の営業時間はおおむね午後6時半まで。閉店間際に注文をもらうことが多く、「残業せざるをえなかった」(宜保さん)。
変化したのは10年ほど前だった。社員らの声を受け、会社として働き方改革に取り組むことを決断したのだ。様々なルールが生まれていった。例えば、「遅くとも午後7時には会社の鍵を閉める」というもの。後ろの時間が決まれば、仕事も前倒しになる。午後6時、そして5時半と、徐々に早く帰れるようになり、今では定時の5時になると大半の社員が帰宅する。かつては月平均で30時間ほどあった残業時間が、今では約15時間(始業前の労働時間も含む)にまで減った。
かといって、サービスの質は低下しておらず、むしろ「向上している」(同)という。エリアによっては現場の人数が足りていないケースもあったが、毎年積極的に採用を進めた結果、配達担当者の人数は以前の倍にまで増えた。現在の従業員数は、関西の拠点と合わせて237人。取引先1件1件に充てられる時間が増え、顧客満足度は向上した。
「現場の人数が増えたことで、残業時間が減り、サービスの質が向上した。良い循環が生まれていると感じる」と宜保さんは説明する。現在は、毎日子供と風呂に入り、夕食を共にしているという宜保さん。「プライベートが充実すると、仕事にも身が入る。日々、幸せを感じている」と笑顔で語った。
商品検索システムと研修で不安を取り除く
入社2年目で営業助手を務める新垣(あらかき)里奈さんは、入社前の内定者向け研修で驚いた。午後5時になると社員が一斉に帰宅したのだ。「残業しないんだ。これだったら趣味のバドミントンも続けられそうだな」。社員同士の仲の良さも好印象だった。すれ違うたびに、お互い気さくにあいさつをしている。業務内容は年代を問わず先輩社員が優しく教えてくれた。「風通しがいい」。率直にそう思った。
ただし、一つだけ不安なことがあった。それは商品数の多さだ。注文票をもとに、地下1階、地上3階の広大な倉庫から商品を探す必要がある。いくら先輩に質問しやすい雰囲気とはいえ、朝から晩まで商品の場所を質問し続けることは避けたかった。
しかし、不安は杞憂に終わった。入社すると、タブレット端末が新入社員全員に支給された。中に入っていたのは島袋が一から作り上げたオリジナルのシステム。バーコード、もしくは商品名を入力すると、どこにあるのか一目で分かった。
島袋では、営業助手を数年務めた後、営業担当となるケースが多い。そうなると、商品の使い方といった知識も求められる。ある日、新垣さんは研修が実施されると知らされた。参加してみると、商品の使い方や、特定の商品がよく売れる理由などを先輩社員がレクチャーしてくれた。
新垣さんは「仕事を覚えるたびに、仕事が楽しくなる。これからもっと勉強していきたい」と口にし、高いモチベーションを維持している様子がうかがえる。
評価制度の変更でチームワークが向上
「働き方改革」を着実に進める同社。経営者はどのような思いで取り組んでいるのだろうか。3代目となる島袋盛市郎社長は、「社員に長く働いてもらいたいから」と言い切る。
島袋社長の考えはこうだ。同社の扱う商品数はあまりにも多い。1~2年で仕事を覚えることは難しく、結果、顧客の信頼が得られない。働き方改革を進めることで、長く働いてもらえる環境が整い、結果サービスの質が向上する。つまり、働き方改革とサービスの質向上は、車の両輪のような関係性だということだ。
同社が働き方改革に取り組み始めた10年ほど前、島袋社長は評価制度も大きく変えた。それまでは個人の営業成績の良し悪しで評価していた。しかし、それでは社内の風通しが悪くなり、業務効率も低下することに気づいた。会社の業績に連動させる評価方法も取り入れたところ、「お互いに助け合おう」という雰囲気になった。また、オリジナルシステムの導入や研修の実施も、残業時間の削減に貢献した、と島袋社長は考えている。
近年は、女性の積極登用にも取り組んでいる。現在、役員に女性を1人登用。以前は女性の新入社員はほぼゼロだったが、2019年度は9人中2人、2020年度は13人中3人の女性を採用している。休んでも復帰できる体制づくりを進めるため、産休育休制度を整備。同じ部署に同じ条件で復帰できる仕組みとし、今年は4人が復帰した。
「つぶれない会社」は社員が安心する
前述の商品検索システムだが、実はまだ開発は終わっていない。「顧客だけが使えるインターネットショップ」の立ち上げを目指し、開発が進められている。現在の受発注は、主に電話やファクスで行われている。これを、徐々に変えていきたいという。例えば、顧客が直接アクセスして、在庫数を確認した上で注文。すると、翌日や翌々日に商品が届く。これにより、現場の負担はさらに減り、ミスも削減できる。結果、別の顧客サービスに時間を充てられるというわけだ。
島袋社長は「我々の業界はイレギュラーな対応も多く、システム開発は難しい部分も多い。とはいえ、働き方改革の一環としても、やらなければならない取り組みだと考えている」と前を見据える。
新型コロナウイルス感染症は、同社の業績にも影響を与えた。2020年2月期までは前年同期比で増収だった。しかし、4月以降は新型コロナウイルス感染症対策のため営業自粛を行った影響で、売上が減少した。しかし、島袋社長はすぐさま売り上げ目標を引き下げ、社員に対しメッセージを発した。「会社は継続することが何より大切だ」と。
「私たちは『100年企業』を目指している。社員が人生設計しやすく、安心して働けるように、つぶれない会社にすることも経営者としての責務。地に足の着いた経営をすることも、働きやすい環境づくりの一つだ」
同社の社員手帳に記された「経営理念」には、こうした一文がある。「私達は豊かな働きがいのある職場をつくり、お互いが幸せになるために一丸となって行動します」。島袋の働き方改革の取り組みは、これからも続く。
CASE STUDY働き方改革のポイント
残業削減を徹底
- 効果
- 会社の鍵を閉める時間を設定するなどした結果、かつては月平均で30時間ほどあった残業時間が、今では約15時間(始業前の労働時間も含む)にまで削減することに成功。また、毎朝の環境整備(清掃や書類整理など)を全社員が行うことで、効率的な作業を行えるようになった。
現場の負担を軽減
- 効果
- 商品検索システムを独自に開発し、商品を探す時間を削減。
評価制度を変更
- 効果
- 個人の営業成績だけではなく会社の業績にも連動した評価(個人の営業成績:会社の業績=2対8)とすることで、チームワークが向上。業務効率が上がり残業時間の削減に貢献した。
COMPANY DATA企業データ
お客さまと共に、お客さまのために半世紀
株式会社島袋
代表取締役社長:島袋盛市郎
本社:沖縄県浦添市
従業員数:237名(2020年6月現在)
設立:1971年
資本金:4,880万円
事業内容:金物・工具の卸販売(関西拠点では金物・工具の販売)
経営者略歴
島袋盛市郎(しまぶくろ・せいいちろう)
1972年、那覇市生まれ。1997年に島袋入社、2002年に社長就任。働き方改革に積極的に取り組み、残業削減や社員の定着率向上を実現した。趣味はスポーツ観戦と音楽鑑賞。好きな食べ物はパクチーサラダとマヌカハニー。休日のウォーキングがリフレッシュになっている。