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医療法人社団明和会 大野浦病院

業種

医療・福祉

地域

中国・四国

従業員数

100〜300人

File.50

「開かれた」働き方で一人一人の人生を尊重する―従業員と正面から向き合う療養型病院「大野浦病院」の場合―

生産性向上

2020.12.22

医療法人社団明和会 大野浦病院
 多くの漁船が行き交い、さわやかな磯の香りが広がる瀬戸内海。海岸近くのJR大野浦駅から歩くと、ほどなく広島県内初の療養型病院として1984年に開院した大野浦病院(同県廿日市市)が見えてくる。「食べる力は生きる力」をテーマに掲げ、患者に寄り添い、食事・口腔ケアを重視した療法に力を入れている。「人手不足」という業界全体の課題、そして従業員と正面から向き合った、同病院の働き方改革とは。

他業界への人材流出に危機感

 同病院は家電量販チェーン「エディオン」の創業メンバー、久保明氏の「地域に貢献したい」という思いから開院した。2002年から食事・口腔ケアに力を入れ始め、2005年には病床数を開院当時の90床から120床へと増床。「医療法人社団明和会」の会長を2006年から務める久保隆政会長は、「一般企業の考え方を柔軟に取り入れた運営方針を取り、外部への発信にも力を入れている」と話す。その言葉が示すように、法人全ての部門が年度初めに目標や前年度の成果を発表する「部署別発表会」や、児童向けの職場体験イベント「広島キッズシティ」への出展、「市民公開講座」など院内外での情報発信に積極的に取り組んでいる。

働き方改革に取り組んだきっかけを語る久保隆政会長

 高齢化社会が進んでいく中、介護と医療が一体となった療養型病院への需要は高い。一方で、高齢化が進む地方では、需要の高さと反比例するように介護の担い手不足が深刻化しているのが現実だ。久保会長が「ここ10年ぐらいは、しっかりと対策は取れていた」と説明する通り、4週10休と休みが確保された勤務形態の確立、風通しの良い職場環境作りと働く環境には細心の注意を払ってきた。

 さらなる環境整備に取り組むきっかけとなったのが、同病院の近隣にオープンした大型ショッピングモールだった。医師や看護師、資格を持っている介護職員は自らの専門性を生かした職に就く傾向が強いため、他業界への流出は少ない。一方、「生活安定の手段」として介護職を選ぶ場合は賃金面を考慮し、他業界に転職するケースも多く、介護職員を中心に、賃金面で好条件だったショッピングモールに人材が流出。このことにより、毎年10%以下で推移していた離職率が2016年には12~13%となり、採用活動も長期化した。

 「状況を変えていかなければならない」。久保会長は改革のキーマンとして、当時リハビリ科長を務めていた松原かほりさんを指名した。「もっと経営に関わる仕事がやってみたい」と考えていた松原さんは当時、MBA(経営学修士)を取得すべく同病院で働きながら県立広島大に通い、人事管理などを学んでいた。松原さんらは県が主催する働き方改革のセミナーに参加。働き方改革の計画や施策を立案し、2018年末に久保会長が改革を全職員の前で宣言。2019年4月から本格運用が始まった。

働き方改革でキーマンとなった松原かほりさん。現在も取り組みで中心的な役割を担っており、パートナーシップ推進室長を務めている

選べる働き方で多様なニーズに応える

 働き方改革にあたり、職員に対し、ニーズをつかむためアンケートを実施した。すると、成長の機会や収入増を求める声が上がった。「働き方改革というと『時間を削る』という動きになってしまいがちだが、『もっと働きたい』というニーズにも応えることが必要ではないか」と久保会長は考えた。もともと休日日数も多く、子育てや介護、キャリアアップなどのため仕事量をセーブする働き方には対応していた。そこで「仕事をもっと頑張りたい」という職員の要望に着目し、より多くの働き方のニーズに応えていくことを目指した。

 多様なニーズへの対応を可能にしているのが、「働き方の選択」だ。 看護師、介護士、セラピストは「標準型」「ワーク重視型」「準ワーク重視型」「夜勤専任型」の4つの勤務形態から選ぶことができる。2020年度の場合、標準型は従来通りの働き方で年間勤務日数は244日、ワーク重視型は同273日、準ワーク重視型は同261日。勤務日数を増やすことで収入増となる。夜勤専任型は、さまざまな事情で昼に時間を作りたいというニーズに応えている。標準型以外の勤務形態では半期や年度末に5万~15万円の一時金を支払い、いずれについても職員の健康を確認するため、2カ月に1度の面談を実施する。

 働き方は年に一度変更することができ、ライフステージの変化にも対応している。個人のニーズを満たすのみにとどまらず、多く出勤する職員がいることで、限られた人員でも勤務シフトを効率的に回すことができる効果もあるという。結果、人手不足の解消にも一役買っている。

介護職のやりがいについて話す野地嘉博さん

 看護部で主任を務める介護福祉士の野地嘉博さんはワーク重視型を選んでいる。「プライベートはもちろん仕事も充実させたい自分にとって、この働き方は大歓迎」と笑顔を見せる。現場を引っ張る役割も担っている野地さんにとって、職員とのコミュニケーションに費やす時間がより取れるようになり、ワーク重視型の利点を感じている。介護職については「やればやるほど結果が付いてくるやりがいのある仕事」と強調。今後について、「介護職の楽しさ、やりがいを多くの職員に感じてほしい。そう感じることができる環境を率先して作っていきたい」と意気込む。

釣りを楽しむ野地さん。素潜り、バイク、キャンプなど多趣味。「仕事もプライベートも充実させたい」と話す

副業解禁で「職員の成長」「地域医療への貢献」を同時に実現

 同病院では、職員のキャリアップを促し、身につけた技術を地域医療に還元する取り組みを進める。キャリアアップの主軸として運用されているのが、専門知識・技術などを段階的に身につけられるように設定された能力開発制度「キャリアラダー」だ。業務遂行能力を「ラダーⅠ」から「ラダーⅤ」の5段階で定義付け、段階を上げていくために受講しなければならない社内研修を示すなどしている。

 それに合わせ、規定の研修を受け、試験に合格した上で業務スキルの高さを認定する制度「法人認定マスター制度」も設けられている。質の高い口腔ケア、食事ケアを提供する「食事口腔ケアマスター」、質の高い認知症ケアを行える「認知症ケアマスター」、来院者へのおもてなしができる「接遇マスター」があり、一つ取得するごとに月給に2,000円加算される。1年ごとの更新制のほか、取得者が技術伝達講習を行うことで、全職員の業務能力の底上げを実現している。

 院内で培った技術を外部でも活用してもらおうと、改革の一環として全職員の副業を解禁した。患者情報の流出を防ぐため、同一地域、同一業態での就業は禁止しているが、申請をすれば障害者グループホームでの介護職や、医療、看護、介護に関する講師のほか、さまざまな業態での副業を行うことができる。

 副業解禁には人材流出の懸念もつきまとうが、「あまり心配はしていない」と松原さんは語る。「他の現場を経験して、大野浦病院の患者に対するケアはかなり充実していると実感する職員もいる。結果的に業務についての視野が広がっている」と説明する。久保会長も「新しいことにチャレンジしたい、と考えた時、『今の仕事を辞める』ではなく、『続けながらトライする』という選択ができる。そういった視点から見ると、逆に人材流出は防げる」と話す。2020年9月時点で11人が副業に取り組むなど、取り組みは浸透しつつある。

「副業を行うことで視野が広がった」と話す三國節子さん

 看護部主任で看護師の三國節子さんは「認知症ケアマスター」の取得者でもある。2020年5月から副業も始め、特別養護老人ホームの夜勤を経て、現在は他施設の介護職員の資格取得をサポートする講師として中国地方の施設を巡回している。「今はお金が必要な時期のため、とても助かっている」と語る。それだけでなく「自分の経験を人に伝えることで、自分にとっても振り返りになっている。病院での仕事にも役立っていると感じている」と副業の効果を説明する。「これからも外での経験で自分の視野を広げ、病棟に何かしらの形で還元していきたい」と力を込めた。

趣味のレザークラフトを楽しむ三國さん

さらに多様性を尊重する職場へ

 新型コロナウイルス感染症は医療現場にも大きな混乱を与えている。同病院では新型コロナウイルス感染症患者の受入れは行っていないものの、職員の心理的ストレスの影響は大きかった。3~4月に院内のストレスはピークに達したといい、対策委員会を設置。消毒用ジェルや一時金3万円の全職員への配布、職員同士が院内で集まる機会を減らすためのオンライン会議の導入と、矢継ぎ早に対策を実施した。

入り口に設置された検温装置と消毒用アルコール。当初は職員が検温を実施していたが、効率化を考え検温装置を導入した

 思わぬ荒波が襲ったが、改革の歩みは止まらない。看護部長をはじめとした各部門長を中心に現在も力を入れているのが、患者と接する以外の事務的な業務「間接業務」の効率化だ。業務の洗い出しを行い、改善点を発見、改善の実施を行い、より患者に向き合えるよう取り組みを進めている。

 その一例が、久保会長が代表取締役を務める同法人のグループ会社「メディカルサービス明和」との連携だ。入院に必要な衣類や日用品などの補充を代行するサービス「すまいる入院セット事業」などを展開しており、働き方改革の取り組みを始めると同時にサービスを導入したことで、これまで職員が行っていた間接業務を減らす効果を生んだ。各部門長の積極的な取り組みもあり、1人当たりの月間平均残業時間は2019年の3時間34分から、2020年上半期には2時間17分に減少した。

 「働き方改革のベースはできあがった。次のステージは『どう働くか』から『どう人生を生きていくか』。つまり、職員一人ひとりがマネジメントできる環境を作ることだ」。久保会長はそう先を見据える。新型コロナウイルス感染症の影響で延期されていたベトナム人の技能実習生の受け入れも再開し、「それぞれの多様性をより認めていく環境が作られていくだろう」と見通しを語る。

 働き方の多様なニーズに応え、副業を解禁する「開かれた働き方」は、住まいや医療、介護などを地域で一体的に提供する「地域包括ケアシステム」の実現にも寄与する。院内で培われた技術を積極的に展開する同病院の働き方は、未来の医療の一つの形を示していると言えるだろう。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

選べる勤務形態

効果
「さらに稼ぎたい」「成長したい」という職員のニーズに応えるため、「標準型」の勤務制度に加え、勤務日数等が異なる「ワーク重視型」「準ワーク重視型」「夜勤専任型」の働き方を導入。年に1度変更することができ、職員の健康を確認しながら運用している。
取組2

「法人認定マスター制度」の実施と副業の解禁

効果
業務の質の高さを認定する「法人認定マスター制度」を実施。キャリアアップの指針を示し、業務能力の底上げを実現している。また、培った技術を外部に展開し、視野を広げる効果も期待して副業を解禁した。
取組3

間接業務の削減

効果
患者対応でない事務作業などの「間接業務」を減らすため業務の洗い出しを実施。同法人のグループ会社と連携するなどして業務を効率化し、残業時間を削減した。

COMPANY DATA企業データ

人と人をつなぐ 手と手をつなぐ

医療法人社団明和会 大野浦病院

会長:久保隆政
所在地:広島県廿日市市
職員数:209名(2020年9月現在)
開設:1994年7月
事業内容:療養型病院、訪問看護、訪問リハビリ、訪問診療

経営者略歴

久保隆政(くぼ・たかまさ) 1976年11月生まれ。2000年に帝京大経済学部卒業後、東京都内の医療法人で医療経営を学ぶ。2002年に医療法人社団明和会入職、それまで続いた赤字経営をわずか1年で黒字化させ、2006年に同会長就任。2007年に同会グループ会社のメディカルサービス明和の代表取締役に就任。