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アシザワ・ファインテック株式会社

業種

製造業

地域

関東

従業員数

100〜300人

File.53

社員が誇りと満足を得る会社へ再創業 ―100年を機に企業風土を変えた アシザワ・ファインテックの場合―

多様な休暇制度

2021.01.15

アシザワ・ファインテック株式会社

本社前で新入社員とガッツポーズをする芦澤直太郎社長(中央)

 創業100年を超える老舗企業は、国内全企業のうち2%ほどだといわれる。千葉県習志野市に本社がある「アシザワ・ファインテック」は2020年で117年を迎えた。芦澤直太郎社長は「倒産と隣り合わせの状況を繰り返してきて、たまたま生き残れているということです」と言うが、その言葉は謙遜でもないようだ。

創業100年を前に再創業

 創業100年を翌年に控えた2002年、芦澤社長は当時の会社「アシザワ」から機械事業を移転し、新たにアシザワ・ファインテックを設立、その経営理念や目標に共感し、一緒になって理想の会社をつくる意思のある人のみ、再入社を呼び掛けた。創業家の4代目として社長を継いで2年目のことだ。
 同社は、原料をナノサイズにまで細かくする微粉砕・分散機の専門メーカー。機械の販売先は自動車、化粧品、セラミックなどの国内大手メーカーが中心だ。微粒子技術で多くの特許を取得し、「技術は世界一」という自負の一方で、当時は慢心も生まれていたという。業績は赤字と黒字を行き来していた。

 危機感をもった芦澤社長は、40代以下の若手社員約10名を集め、「百年委員会」と名付けたプロジェクトチームをつくった。それぞれが感じる会社の問題点を上げてもらったところ、営業力がない、技術の資料がまとまっていない、新製品を開発していない、不良品の改良すらやっていない、という声が挙がった。「結局、その原因を突き詰めると、経営者である私に責任がある。私とともに会社を変えていこうと話しました」 従来の環境を断ち切り、2003年4月、創業100周年を機に新会社による「再創業」を選択した。

ゴールドスタンダードを手にした芦澤直太郎社長。カードにはアシザワ・ファインテック号の乗船証と記されている

 議論に約1年かけて「百年委員会」で作ったのが、企業理念や社員の行動指針をまとめた「ゴールドスタンダード」(金科玉条)だ。お客様第一の製品・サービスの提供を誓うとともに、「社員が誇りと満足を得る企業になることを明文化しました」(芦澤社長)。『社員は財産です』とうたう。ゴールドスタンダードは名刺大の六つ折りカードにまとめ、全社員が携帯する。 新会社にはほぼ全員が入社した。新たな企業目的と価値観を社員と共有したうえで、働く環境の改善に取り組んできた。

研修をからめたノー残業デー

 芦澤社長は毎年策定する経営計画書に「社員の心身の安全や私生活との調和に配慮する」ことを明記している。残業時間削減と年次有給休暇の取得には特に力を入れる。
 就業時間は午前8時15分から1時間休憩を挟んで午後5時15分まで。月に2回をノー残業デーにしている。この日は終業後に、ベテラン技術者が技能を伝える「マイスター研修」を開いているが、研修ありきのノー残業ではないという。
 「研修は月1回で自由参加。あえてこの日に企画することで、全員定時に仕事を切り上げるのが狙いです」と人事総務課主査の宮下絢さん。8月には2週間のノー残業ウイークもある。

 生産管理課と製造課を兼務する課長の原田香さんは毎週月曜日、両課の17名が勤怠管理ツールに入力した残業申請をチェックすることから1週間が始まる。「それぞれの1週間の業務量を把握して承認しています」

製造課の社員と終礼をする課長の原田香さん(右)。1日の業務内容や残業の有無を確認する

残業は事前申請し、必要性をチェック

 同社では課によっては、朝礼、昼礼、終礼と日に3回課員が集まり、仕事の進捗などを報告し合う。昼礼では午後の作業と残業予定を確認。終礼で2時間の残業申請者が出ると、一人が手伝うことで、1時間で終えられないかなどの調整をする。人に頼めない作業の場合は、その日にやる必要があるのかを、ベテラン技術者の意見を聞いて判断するという。
 原田さんは「残業するということは何か問題があるからです。逐一報告があれば、そこに早く気付けるし、不具合の改善につなげられます」と利点を語る。

 芦澤社長は言う。「そもそも残業は、社員が勝手にするものではなくて、上司からの指示でやるものです。残業の必要性を毎日確認するのは当たり前のこと。残業を減らすには上司と部下のコミュニケーションが大事です」

1時間単位で取れる年次有給休暇

 年次有給休暇では、7~9月に平日5日間を取得し、前後の土日と合わせて9連休を推奨する。グループウェアのスケジュール機能に全社員が年休を入力する一方、社員食堂にも、全員の名前入りの夏季3カ月カレンダーを張り出して、休む日に丸をつけるよう呼びかける。「休みを取りやすい雰囲気づくりです」(宮下さん)
 年休の取得単位は1日から半日に、そして2016年度からは1時間単位で取れるようにした。育児休暇からの復職者が増えてきて、保育園や小学校の用事、病院通いなど時間刻みで使えるように改めた。
 子育て中や、家族に要介護者のいる社員に対しては、最短で週21時間勤務を認める「生活サポート短時間勤務」の制度があり、週3日勤務や、始業・終業時間の繰り下げ、繰り上げなど柔軟に対応する。
 パート社員の正社員登用も進める。子どもの手が離れ、フルタイムで働けるようになって希望すれば、勤務評価を踏まえて部課長が推薦、社長面談を経て決まる。2019年度は2名を正社員登用した。

「育休は躊躇なく取れました」と話す早川徹さん。職場のフォローと社内の雰囲気の良さがあったからという

 人事総務課主査の早川徹さんは、会社初の男性の育休取得者だ。昨年末に第1子の長女を授かり、約1カ月の育休を取得した。「仕事を離れてちょっと息抜きできるかな」という甘い考えはすぐに消え、育児の忙しさ、大変さを痛感したという。
 そこで理系男子の早川さんは、24時間のタイムマネジメント表をつくった。この時間に買い物に行き、掃除をし、お風呂に入れ、食事をとる。時間を管理して家事と育児をこなした。職場に戻ってからもその習慣は続き、「月曜の朝に1週間の予定を手帳に書いて、ToDoリストをつくっています。この仕事は30分で終わらせるとか時間の目安も入れます。ダラダラとやって帰宅が遅くなると、娘の面倒が見られなくなるので」。育休中に実践した時間管理術は社員集会でも発表した。
 同社には男性の育児参加を図るため、妻の出産前後に2日の特別有給休暇制度も設けている。

若い人材が活躍する会社に

 「女子だから、文系だからと、意欲と能力のある学生をはじくのはもったいない」(芦澤社長)という考えから、2003年の新会社発足以降、毎年女子学生を採用している。
 そうして入社した30代以下の女性社員は現在22名に。業績好転に伴う採用増もあり、20~30代の社員は全体の約6割を占め、若い人材が活躍する会社に変わった。
 2019年度全社の年次有給休暇の取得率は86.4%、1人当たりの月平均所定外労働時間は21.1時間、35歳以下の離職率は4%。働きやすさは数字に表れている。
 新入社員に対し、若手社員がマンツーマンで相談にのるメンター制度や、全社的視点を養うため、異動希望も考慮して複数部署を経験するジョブローテーションにも取り組む。2016年度には、若者の採用や育成に積極的で、働きやすい環境を整備する中小企業を厚生労働大臣が認定する「ユースエール認定企業」にもなった。千葉県での第1号だ。

 新型コロナウイルス感染症は、取引先企業の設備投資に影響し、来期の業績は厳しい見通しだが、「新会社でコツコツと取り組んできた社風が、実績として表れてきたと思います」と芦澤社長。目指してきた<社員が誇りと満足を得る企業>は、現実のものになっている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

社長と若手社員で社内改革を議論

効果
「百年委員会」を立ち上げ、企業目的や社員の行動指針を一緒に考えた。社員と価値観を共有し、社内諸制度の改正に取り組んだ。
取組2

勤怠管理ツールと対話で残業時間削減

効果
残業する際は上司への事前申請が必要。週の始めに1週間の残業予定を共有スケジュールに入力。当日の終礼で管理職が残業の有無・必要性を確認し、課員全員で残業を減らす策を考える。
取組3

年次有給休暇は「短時間」&「長期」で活用

効果
年休は1時間単位で取れるように改正。夏季は連続平日5日の取得を促し、土日を含めた9連休を推奨する。妻の出産前後に2日の特別有給休暇も制度化した。

COMPANY DATA企業データ

微粒子技術で“新しい可能性の共創”

アシザワ・ファインテック株式会社

代表取締役社長:芦澤直太郎
本社:千葉県習志野市
従業員数:145名(正社員136名、非正規雇用労働者9名=2020年8月末現在)
設立: 2002年12月(創業1903年6月)
資本金:9,000万円
事業内容:原料をナノサイズの微粒子にする粉砕機・分散機のメーカー。車の塗料や印刷、化粧品などの美しい発色や、スマートフォン、電子部品の小型化などに技術が活かされている。

経営者略歴

芦澤直太郎(あしざわ・なおたろう)1964年生まれ。慶応大学法学部卒業。1987年三菱銀行入社。1991年前身のアシザワに入社、2000年に社長就任。習志野商工会議所副会頭。趣味はカラオケ。「NHKのど自慢」出場をへて、千葉在住6名のユニット「ばんじィ」のメンバーとして「落花生のうた」でCDを出す。好きな言葉は「ピンチはチャンス」。