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株式会社スープストックトーキョー

業種

宿泊業、飲食サービス業

地域

関東

従業員数

301人〜

File.55

社員の声を聞き進めた「働き方開拓」―友達に紹介したい職場へ スープストックトーキョーの場合―

多様な休暇制度

2021.01.15

株式会社スープストックトーキョー

江澤身和副社長(右から2番目)と若手社員。社員の平均年齢は30歳。本社オフィスは若さと温かさに包まれていた

 具沢山のスープを一口ふくむ。体の芯からほぐれるような温かさが、出勤前のエネルギーを、お昼のしばしの安らぎを、都会に暮らす人たちに提供している。駅構内やショッピングモールなど東京を中心に全国で57店舗を展開する、食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」は1999年の設立以来、女性が一人で入れるファストフードをコンセプトに、吟味した食材と化学調味料や保存料に頼らない安心感、ボリュームある満足感を打ち出し、客層を広げてきた。

おしゃれな雰囲気の店構えも女性に人気の理由の一つになっている

企業理念は「世の中の体温をあげる」

 企業理念は「世の中の体温をあげる」こと。お客様が何を求めているのか、先回りして言葉をかける。「今日も良い1日を」と一言添えて見送る。もてなすスープと同様に、お客様が温かい気持ちになれる接客を志している。

 「それには、社員やパートタイム労働者であるパートナー自身の体温が上がっていないと、お客様への優しい気持ちや心の余裕はできません。親会社からの分社を機に、企業理念に立ち返って、熱量が上がるような働き方へと制度を見直してきました」

 2005年にパートナーとして店舗で働き始め、1年後に社員になり、分社した2016年に取締役兼人材開発部長に就いた江澤身和副社長は、「働き方改革」ではなく「働き方開拓」と名付けた独自の社内制度づくりに取り組んできた。

2019年、副社長になった江澤身和さん。パートナーとして働き始めてから15年。一緒に仕事をしてきた仲間の顔を思い浮かべ、必要と思う社内制度をつくってきた

 「私たちの魅力はなに?」
 分社化を前に、江澤さんは周りの社員に問いかけた。提供する商品、居心地の良い店舗、働く仲間。そうした答えが返る一方で、働く環境は聞かれなかった。

 「友達にお店は紹介できても、仕事は紹介しないというのが率直な声でした。当時は残業が多く、休みが取りづらいことが辞める理由のひとつに挙がっていました」

 「うちで働こうよ」と社員が友達に言えるような「働き方開拓」の3カ年計画をスタートさせた。

働き方開拓によって、社員にとっても居心地のいい店舗を目指した

暦の休日数通り年120日休むと宣言

 その一つが2018年度に採り入れた「生活価値拡充休暇」だ。1年間の土日祝日を足し合わせると約120日。この暦通りの休日数確保を掲げ、月の公休9日と、それまで年6日だった「季節休暇」を倍増させた年12日の生活価値拡充休暇で、年間120日の休日休暇取得を就業規則に定めた。

 社員の休みを増やせば当然、人の手当が必要になる。そこで、社員に休みを取らせるために、店長経験者らで「拡充隊」を編成し、人手が不足しがちな首都圏の店舗を中心に支援に入る仕組みをつくった。店長クラスが手助けに入ることで店舗の人材育成も図る。当初3名だった「拡充隊」は、催事支援のミッションも加わって今は6名に増やした。

 年間休日休暇120日は飲食業ではインパクトのある数で、社員に会社の本気度を示し、制度を掛け声に終わらせない体制を整えて定着させてきた。

副業を認め、意欲ある社員を後押し

 また、同じタイミングで「ピボットワーク制度」も創設した。片方を軸足に固定し、もう片足を自在に動かすバスケットボールのピボットターンから引用した、副業・兼業を認める制度だ。

 社員の平均年齢は30歳と若い。会社に軸足を置きながら、確保できた休暇でほかの仕事も経験して自分を高めたいという意欲ある社員からの声に対応した。ダンス経験者が振り付けの仕事をしたり、学生時代から続ける衣服づくりでネット販売をしたり、クリエイティブな複業をしている社員が多いという。同社では兼業している仕事に「正副」という優先順位は求めておらず、あくまでも「複業」という位置づけで「副業・兼業」を認めている。適用のルールは、会社のブランドを毀損しない、社内情報をもらさない、本業に支障をきたさないこと。「身分を明かして受け入れてくれるのなら、同業他社でもOKです」(江澤さん)。実際、接客サービスを高めたいと、大手コーヒーチェーンの了承を得てアルバイトをする社員もいる。

 副業先へ転出してしまう心配について、江澤さんは「“複業”で社員が辞めてしまうのは今の仕事に魅力がないからです。私たちがやるべきことは社員の囲い込みではなく、仕事にやりがいをもてる環境をつくること、そこに力を注ぐべきだと考えています」と断言する。

 こうした「働き方開拓」の取り組みは、社員の間に業務効率や時間管理への意識を変え、2018年度は月平均20~30時間だった正社員の残業時間が2019年度は約半減。離職者が減り、新卒・中途採用の応募が増えた。社員の休日が増えるのをカバーするパートナーの人件費コストを補うだけの成果がみられたという。

3児を育てながら、時短勤務制度を使って店長も務めた高砂恵さん

 社員に好評な制度として、働く時間と曜日が選べる「セレクト勤務制度」がある。1日8時間(月177時間)のフルタイムから、7時間半、7時間、6時間半、6時間(月125時間)の5段階の勤務時間を、だれもが申請できる。

 人材開発部で採用や研修を担当する高砂恵さんは、小学5年の長男、保育園に通う次男と長女がいる3児の母親。新卒採用1期生で2005年に入社した。3人目の育休後に、1日6時間勤務で復職。横浜市内の店長を任されて6時間半に延ばし、子育ての様子をみながら自分のペースで7時間、7時間半と働く時間を増やしてきた。末の子が小学校に上がればフルタイムで、と考えている。

 採用業務では「出産しても働き続けられますか」という学生の質問に体験を話し、育休後の働き方や復職不安を取り除く「Welcome Back研修」で講師を務める。「特にこの数年は出産を機に辞める社員は、ほぼいなくなりました」。

 高砂さんが店長の時、助けられたと感じた制度が「拡充隊」だったという。生活価値拡充休暇を使って夏休みに子どもを連れて帰省したときは、「店長経験者なので運営を安心して任せられた」と話し、1週間の長期休みを取ることができた。

「申し訳ない」と思わせない制度に

 セレクト勤務制度は、育児や介護にあたる社員が対象だった時短勤務制度を2018年度に見直し、就学や自己研鑽、治療などの理由も認めることとした。子育て中の女性社員の声に違和感をもったことがきっかけだと、江澤さんは振り返る。

 「働ける時間が限られ、夜のシフトにも入れないので申し訳ないと言われるのを聞いて、おかしいと思いました。仕事も育児もこなし、すごく頑張っている人が、なぜ肩身の狭い思いをして働くのか。もっと堂々としていていいと思いました。子育て中の社員を特別扱いするような印象をなくすために、だれもが使える制度に変えました」

 加えて、子どもが小学校に上がるとフルタイム勤務に戻る社内規定も外した。子育ての方針や関わり方は人それぞれ。シングルマザーもいる。子どもの年齢に関係なく、時短勤務を認めることにした。今では約1割の社員がセレクト勤務制度を利用している。

入社して8年になる宮崎藍さん(写真手前)。働きながら約1年かけて植物療法の民間資格を取得した

 物販事業部で働く宮崎藍さんは、持病の治療で18年夏から約1年間、セレクト勤務制度を利用した。店長職からは外してもらい、店員のシフト勤務調整などの事務仕事から徐々に体を慣らしていったという。「自分ができるところから仕事を始められたので、心理的な負担が軽くなりました」と宮崎さんは言う。

 心身のコンディションを整える植物療法に興味をもち、週休2日の休みのうち1日を水曜に決めて植物療法を学べる学校へ通学。約1年をかけて植物療法の民間資格を手にした。女性が約7割を占める社内では、頭痛や風邪予防の相談をもちかけられることが増えた。ゆくゆくはピボットワーク制度を使った複業で、「ワークショップを開いたり、化粧品などの商品開発に携わったりできればいいなと思います」と宮崎さん。子育てや体調など、その時々の社員の状況を柔軟な社内制度が支えている。

 子ども3人を育てながら働く高砂さんは、10歳の長男に「誕生日はどこで食べたい?」と聞いたら、「スープストックトーキョーがいい」と言ってくれたという。「将来アルバイトをしたいらしいです。いつか一緒に働けたらいいですね」と、高砂さんはうれしそうにほほ笑む。

 生き生きと働く「体温」は、お客様だけでなく、家族にもまた伝わっている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

年間12日の「生活価値拡充休暇」

効果
年間休日休暇120日取得を掲げ、公休を月1日増やして月9日に。年6日だった季節休暇を生活価値拡充休暇に改め12日に倍増した。休みが取りづらい飲食業からの脱却を図る。
取組2

複業を可能にした「ピボットワーク制度」

効果
増えた休みの活用法として、グループ内や他企業への複業を解禁。本業に支障がないことなどを条件に、社員のスキルアップへの意欲を後押しする。
取組3

全社員が使える「セレクト勤務制度」

効果
1日8時間のフルタイムから6時間まで、30分刻みで5段階の勤務時間が選べる時短勤務制度を導入。育児に限らず、就学や自己研鑽などにも適用を広げた。

COMPANY DATA企業データ

世の中の体温をあげる

株式会社スープストックトーキョー

代表取締役会長:遠山正道
本社:東京都目黒区
従業員数:約2,000名(正社員約200名、パートタイム労働者(パートナー)約1,800名=2020年9月末現在)
設立:2016年2月
資本金:1,000万円
事業内容:食べるスープの専門店「Soup Stock Tokyo」を全国57店舗運営。家庭用冷凍スープやおだしの専門店、ネット通販も展開する。

経営者略歴

遠山正道(とおやま・まさみち)1962年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。三菱商事に入社し、1999年にSoup Stock Tokyoを開店。翌年、三菱商事初の社内ベンチャー企業として株式会社スマイルズを設立。MBOで全株取得し、三菱商事を退社。2016 年、スマイルズからスープストックトーキョーを分社化し、会長に。