支援・相談は働き方改革特設サイト

ホーム > 株式会社大空出版

株式会社大空出版

業種

情報通信業

地域

関東

従業員数

30〜49人

File.56

働き方改革が優秀な人材の流出を防ぎ、会社の財産に ―「社員ファースト」を信条にする書籍・ウェブ制作「大空出版」の場合―

テレワークの推進

2021.01.15

株式会社大空出版

本社で勤務する社員たち。若手が多くを占め、雰囲気は明るく活気にあふれている

 書籍やウェブ制作を手がけてきた大空出版(本社・東京都千代田区)は、2000年の設立当初、若手社員がなかなか定着しなかった。大手出版社で働いてきた加藤玄一社長の「やればやるだけ教育になる」という経験が、結果として若手社員に過重労働を強いていたからだ。意識を変える契機は、2009年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災だった。受注が減ったことに加え、自身にも時間的余裕が生まれたこともあり、客観的に社内環境を見つめることにつながった。

選べる6種類の勤務時間

 「それまでは自分たちの職種は特殊だと思い込んでいたので、『もっと世の中に合わせないといけない』と社会保険労務士に助言されても、意見がかみ合いませんでした。意識を変えてからは積極的に意見を求めるようになりましたね」(加藤社長)

「改革はまだ始まったばかり。今後は社員のメンタルチェックも、より精度も上げていきたい」と話す加藤玄一社長

 労働時間が不規則なのは出版業界の常……とは、もはや言っていられない時代。紙媒体の出版社として起業したが、ウェブ事業の需要が増した時期には、技術者不足もあって労働時間が延び、徹夜が繰り返される事態が続いた。

 例えばウェブ制作と管理を任されているクライアントの中には大手自動車メーカーがあり、「F1」(国際自動車連盟が主催する自動車レースの最高峰、フォーミュラ1の略称)という一大イベントに関するウェブサイトの制作を請け負っていた。ヨーロッパの開催地から届いたレースの速報を受け取って加工し、ウェブ上にアップする作業は、時差の関係上、夜通しの作業になってしまう。ローテーションを組んで作業にあたったが、担当者の人数が少なかったこともあり、どうしても一部社員の負担が重くなり、仕事によっては夜中までの作業が出てしまい、効果は薄かった。

 そこで担当社員を増やし、より細かな体制に整備した。9~18時、10~19時というように出勤・退勤時刻を細かくずらし、夜勤も含めた6種類の勤務時間を設定した。成果は明らかで、残業時間は大幅に減少した。

 以前は残業時間は月80時間を軽く超え、3桁に達することもあったという。「月平均で10時間から、多くても20時間くらいに抑えられるようになりました。それまでは際限なく、不夜城とまで言われていましたから……」と加藤社長は苦笑する。

「忙しい日が続いた後は、年次有給休暇なども活用し、自分なりにリフレッシュしたり、刺激を受けたりするようにしています」(グラフィック・デザイナーの大類百世さん)

データも責任もチームで共有

 加藤社長は「年次有給休暇を取ってね」などと社員にまめに声はかけるが、実際に社員の勤務状況を把握し、働き方のバランスを取っているのは、各チームのリーダーたちだ。入稿間際には、記事やデザインへのこだわりから、残業時間が増加してしまったり、年次有給休暇が取れない場合もある。

 「残業時間や年次有給休暇の取得状況を把握して共有する形にしています。仕事の仕方も、1人が責任を抱え込まないように、1案件に2~5人で関わる体制に変えてきました」と説明するのは、編集全般を指揮する安田洋明専務。もし誰かに何かのトラブルが生じた時でも、別の社員がすぐに仕事を引き継ぐことができるよう、チーム内で仕事のデータを共有している。この体制が、コロナ禍の今、まさに生かされている。

編集部門を統括する安田洋明専務(右)とウェブ事業担当の近藤大晃常務(左)

コロナ前から「在宅勤務規程」を導入

 2019年に「在宅勤務規程」の導入を図ったのは、東京五輪開催で都内への通勤や業務に支障が出ることを想定して試験的に在宅勤務を始めたクライアントの大手企業に倣ったからだった。

 「ちょうど子育て中で時短勤務をしていたデザイナーや産休明けの経理担当もいたので、この制度があれば彼女たちもうまく時間をやりくりしながら働けるのではないかと考えました」と話す加藤社長は、社会保険労務士に相談しながら規程を作成し、在宅勤務の実施に踏みきった。埼玉の自宅から会社まで往復3時間を要し、3歳の子どもを保育園へ送り迎えする都合上、時短勤務を続けていたデザイナーの森尻夏実さんは早速、在宅勤務に切り換えた。「対面でない分、少しレスポンスが遅れたり、直接質問したりできないこともありますが、在宅勤務になってからは通勤にかかる分を就業に充てられ、フルタイムで働けるのはよかったなと思います」と満足そうだ。

在宅勤務規程により、時短からフルタイム勤務に戻ることができただけでなく、子どもと過ごす時間が増えた森尻夏実さん

 在宅勤務体制が整っていたため、コロナ禍でも即、対応できた。3月初旬にはデザイナーを中心に社員の3割を在宅勤務にし、月末に全員にヒアリングを行い、自宅の通信環境など在宅勤務の実施にかかる課題をクリア。4月からは全社的に在宅勤務に移行した。

 会社で使用しているパソコンを、全社員の自宅へ配送し、希望があればインターネット環境も整えた。さらに、自宅でかかる電気料金などを考慮し、全員に一律3000円の手当も支給している。会議はリモートで行い、必要に応じ経営陣や担当責任者が出社した日もあるが、6月末まで9割が在宅勤務を続けた。

 現在は、出社組と在宅組がほぼ半々。在宅勤務中の編集記者、森穂高さんは「在宅で仕事ができるおかげで、共働きの妻と過ごす時間が増えました」とプライベートも充実して、表情もにこやかだ。

 グラフィック・デザイナーの大類百世さんは、「どこでも仕事はでき、成果が生まれることが証明されたので、これから結婚する人や介護をする人が増えていった時でも、それまでやっていた仕事を続け、なおかつ新しい仕事も獲得できるようにやっていけたらいいなと思います」と話す。在宅勤務体制の整備は、仕事と生活の両立に結びついている。

大空出版東京本社の風景。平均年齢30歳代前半、男女比は6対4だ

 大空出版の働き方改革の根底にある目的は、優秀な人材を流出させないこと。設立からまだ20年の若い企業だけに、社員の平均年齢も30歳代前半で子育て世代も多い。扱う業務の多様化とグローバル化が進むにつれ、それぞれの仕事の性質や社員一人一人のライフスタイルに合わせて柔軟に対応できる仕組みを整えてきた。

 2018年に静岡市に静岡支局を開設したのも、入社4年目の編集記者から「体の弱い妻が実家のある静岡に里帰り出産したいと言っており、自分もついていきたい。会社は辞めざるを得ないですよね」と相談され、「せっかく育てた優秀な社員を手放したくない」と思った加藤社長の決断だった。全社員40名で、経営者と社員の距離が近い企業だからできる「社員ファースト」の取り組みといえるだろう。

TOEICの受験を奨励、海外事業にも進出

 出版社として設立された大空出版だが、年々ウェブ制作の受注が増え、現在は6対4の割合でウェブ業務の方が多くなった。現在、編集者とウェブのデザイナーの数は同数だが、日本で不足しているウェブデザイナーを確保するため、2015年に開設したのが、インドネシアのジャカルタ支局だ。

オンライン社内会議。在宅勤務中の社員、ジャカルタ支局と、東京の本社をつないで行っている

 ウェブ環境が整備されている現地の大学から日本語を学ぶ学生をリクルートし、現在6名がデザイナーとして支局で活躍している。外資も多く流入するビジネス・チャンスの宝庫でもある。これまでは駐在員事務所だったが、現地での登記を終えたことにより、現在は現地での営業が可能となり、欧米からの受注体制も整った。英語が堪能な社員たちの活躍の場も広がる。人事担当の近藤大晃常務は「社員のTOEIC受験を奨励し、年1回は会社が受験料を補助しています。750点で奨励金を1万円支給し、850点を超えると毎月5000円の手当を支給しています」と話す。

大空出版が主催する日本写真絵本大賞の授賞式で

 社員の語学力、海外支局も生かして、「国内外のネットワークの整備をさらに充実させ、業績を伸ばしていきたい」と今後の展望を語る加藤社長は、編集者出身ということもあり、出版文化の発展に寄与したいという思いから、会社設立20周年を記念して、今年、「日本写真絵本大賞」を創設。写真絵本作家を発掘して育てる環境作りにも着手した。

 一方で、「人財」としての社員の育成にも力を入れており、「今はまだ若い社員が中心ですが、長年働いていれば、親も高齢化していく。在宅勤務で介護も可能という環境を整えていれば、優秀な人材の流出を防ぎ、会社の財産となってくれるのではないかと考えています」と、さらなる会社の発展を目指している。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

6種類の勤務時間の中から選べる勤務時間制度を導入

効果
多種多様なクライアントの業務、グローバル化の進展によって不規則になりがちな労働時間を6種類の勤務時間の中から選べる勤務制度を導入することにより、残業時間の大幅カットに成功。
取組2

チーム制の導入で一人に仕事が集中しないようにフォローし合う仕組みを導入

効果
一つの案件に、必ず複数人を関わらせる体制を取り、一人が責任を抱え込まないようしている。これにより、チーム内でフォローし合う関係ができ、効率的に仕事ができるようになった
取組3

在宅勤務規程を整備

効果
子育て中の社員を想定して始め、コロナ禍においては全社員が活用。「今後、親の介護が必要になった時にも働き続けられる」と安心した社員も多い。

COMPANY DATA企業データ

既成概念にとらわれることなく新しい世界を創造していく。

株式会社大空出版

代表取締役社長:加藤玄一
本社:東京都千代田区
支局:静岡支局、ジャカルタ支局
従業員数:40人(2020年11月現在、支局も含む)
設立:2000年4月
資本金:2,000万円

経営者略歴

代表取締役 加藤玄一(かとう・げんいち)
1961年、神奈川県生まれ。中央大学文学部卒。講談社『ViVi』別冊、角川書店『ザ・テレビジョン』、毎日新聞社『毎日グラフ』、中央公論社などで、編集者として従事。2000年に有限会社大空出版を設立。2005年4月、株式会社化し、現在に至る。