支援・相談は働き方改革特設サイト

ホーム > 株式会社井木組

株式会社井木組

業種

建設業

地域

中国・四国

従業員数

100〜300人

File.72

働き方改革で、会社が成長する「人づくり」を活性化 「変化」を経営する会社-井木組の場合-

時間外労働の削減

2021.10.29

株式会社井木組

 本州の西北、山陰地域に位置する鳥取県に本社を置く株式会社井木組は、1912年創業。来年で創業110周年を迎える、いわゆる100年企業だ。創業時より、道路や港湾、建築など鳥取のインフラを整備し、地域に貢献。長い歴史の中で、県民の暮らしを守り、支えてきた。 創業家出身の4代目である井木敏晴社長は、着実、丁寧な仕事ぶりで高い評価を得てきた「質実剛健」の社風を受け継ぎながら、チャレンジ精神にあふれるアイデアマンだ。 少子高齢化が、予想以上に早く地方の中小企業経営にダメージを与え始めた現状を打破するため、自社に「働き方改革会議」を立ち上げたこともその一つ。職場環境を整備し、現場の長時間労働を何とか削減したいとの想いからだった。

分業改革を通して、現場業務を取り崩す

 土木・建築の仕事は、現場がメインだ。日中、施工に加え、測量や写真撮影、役所との打ち合わせなど、業務は多岐にわたり常に忙しい。しかし、一日の仕事はこれで終わりではない。17時に現場作業が終わると、現場事務所に戻り、作業日報や書類の作成、提出用の写真整理、パソコン業務といった事務作業が待っている。それらに追われ、超過勤務となるのがネックだった。

 井木社長は一計を案じる。「この事務作業をバックアップする人間がいれば、現場は業務に専念でき、労働時間の短縮にも繋がるのではないか」。

 そして、現場の過重労働を減らすことを目標に、主に事務作業をサポートする現場支援担当者制度を立ち上げた。しかし、制度を立ち上げたものの、実際導入するまでには時間を要したという。 その理由は、支援担当者にある程度のスキルを身につけさせた上で現場に送り出さなければ、現場監督の教育・指導の負担が発生してしまうからだった。井木社長は、まず膨大な書類と写真の提出が求められ、事務作業が繁雑である公共工事の現場のみに対象を絞り、担当者を現場に常駐させて工事現場での業務内容を把握させた。そして自社の方針を各現場に伝えていった。 当初現場からは「今まで通り自分でやった方が早い」「手伝いは不要です」の声も多かったという。しかし井木社長は「何ごとも、やってみなければわからない」と方針を貫いた。

「会社の成長発展のために、挑戦を続けていきたい」と井木敏晴社長

 工務管理部主任の伊藤美紀さんは、現場支援担当の第1号だ。就職活動時、井木組の採用担当者から現場支援担当制度が創設されると聞き、「縁の下の力持ち的な仕事がしたい自分に合いそう」と入社を決めた。 配属が決まると、現場に赴き、工事書類のデータ入力や書類ファイル、インデックス作成など、基本的な事務作業を代行した。 「最初は土木の知識もほとんどなく、現場で飛び交う専門用語もわからない状態でした」と伊藤さん。現場の先輩から丁寧な指導を受け、少しずつ業務を学んでいった。 現場支援担当のメイン業務は、現場で働く人たちのサポートだ。しかし多種多様な現場を経験できたことから、もっと土木の知識を深め、できることを増やして現場の役に立ちたいと思うようになったという。仕事と両立しながら、土木施工管理技士1級の資格も取得した。

「現場からの『ありがとう、助かったよ』の声が働く原動力です」と工務管理部の伊藤美紀さん

 伊藤さんの仕事ぶりが評価され、社内に現場支援担当の重要性が認知される。新たに2名の社員が加わり、現場支援担当がチーム体制となった。伊藤さんはチームリーダーとして、現場の進捗状況を確認しながら、メンバーの配置やシフト調整も行っている。
 現在の伊藤さんの業務は、書類作成やデータ入力など従来の事務作業にとどまらず、品質管理や施工管理、測量の補助、現場見学会など幅広い。 以前は、日中の施工作業後、夕方現場事務所に戻ってから書類作成、完成検査前は最終の書類確認やまとめ作業と残業も多かったが、伊藤さんは「支援担当者が日中にできることから対応し、負担軽減ができている」と話す。現場の残業も目に見えて減ってきたと感じている。

 最近では、なかなか時間が取れない現場技術者の代わりになればと、3DCIMモデル(構造物の3Dモデルと構造物を作る過程で発生する品質や、出来形などの情報がセットになったもの)・CIM関係の書類作成や活用内容を提案、UAV(無人航空機)による空撮なども行えるように現場支援チームで勉強中だ。

 井木社長は、現場支援チームのメンバーに「現場監督の仕事を取り崩してくれと伝えている」という。現場監督1人が抱える仕事を分業することで、現場トップである彼らが、本来の業務に注力できる。「現場施工管理に専念し、かつ技術の研鑚が進めば、より高品質のものを顧客に提供できる。各社員が自身の能力より少し上の仕事に取り組むことは、組織としての理想型」と井木社長は語る。

マルチスキル化で女性の活躍の場を広げる

 働く人を守るため、時間外労働の削減や年次有給休暇取得の推進といった働き方改革が叫ばれて久しい。同社もそれらの取り組みは以前より続けており、例えば年間休日は89日から104日へと増やすなど、成果も挙げている。しかし会社は、生産性を向上させ、成長させることも同様の使命だ。「労働時間を減らしながら生産性を高めるには、社員一人ひとりの能力アップが必須」と井木社長は力を込める。

 現場支援担当制度の成功を足がかりにした、井木社長の次の一手は社員の「マルチスキル化」だ。本社の事務職を登用し、現場支援チームをさらにサポート。現場支援の一端を担ってもらう仕組みづくりを今年度からスタートさせた。 適材適所を考え、本来の業務だけでなく、より専門的なことや技術などをマルチに身につけてもらうことで、本人のスキルを高めることが狙いだ。 「今は女性も顧客と接する最前線に出る時代」と井木社長。建設現場は男性の仕事という風潮はいまだに根強い。その点、同社は女性の進出がめざましい。設計、積算、施工管理や住宅・リフォームの営業といった分野で、女性社員も活躍中だ。現場と事務の業務都合が合わないなど課題はあるが、現場支援チームだけではなく、会社全体として現場をサポートする仕組みが確立されつつある。

「いつも同じ風景だと思考が固まる」(井木社長)と、本社ではフリーアドレスの導入も始めている

職場環境を整えて、働きやすさを推進

 社員が生産性を高め、何より気持ちよく働いてもらうには、働きやすい環境の整備も欠かせない。総務部次長の八嶋美佐緒さんは、女性の視点からも職場環境を整え、社員をサポートしている。 「初めは退職者を減らしたいと思ったことがきっかけです」と八嶋さん。働く人へのメンタルヘルスケアが注目され、働き方改革関連法ができる前から職場環境の改善に取り組み始めた。 「退職される人は、皆さまざまな事情がある。心の病気、身体の病気に会社がきちんと向き合って、対応しなければなりません」と話す。

 八嶋さんが、倉吉支店から本社総務部に異動になったタイミングで、同社が、職場風土改革推進事業(公益財団法人21世紀職業財団)に参画することになった。「会社にとって必要なことだ」と、上司に相談すると「やってみたら」と後押しをしてくれたという。 育児・介護休業制度の導入と取得しやすい仕組みづくりからスタートし、その実績で「くるみん」の認定も2度受けることができた。「これらの取り組みから、異業種を含めいろいろな方とご縁が持てたことが最高の財産です」と八嶋さんは話す。

 また、井木社長をはじめ、役員たちに働き方改革への理解があったことも、取組がスムーズに進んだ要因だという。 「6Sパトロール」もその一環だ。製造業など多くの現場で取り入れられている、整理、整頓、清掃、清潔、しつけの5Sに、同社は習慣をプラス。現場やその事務所で清掃や整頓を徹底することで、現場の環境改善を目指す取り組みだ。「6Sパトロール」は月に一度、本社の事務社員がメンバーとなり、現場を訪問。自社で作成したチェック表に基づいて評価し、改善していく。パトロール結果は社内に配信される。現在はどの現場も美化が進み、社員の安全面も配慮されるなど、効果がしっかりと現れている。 さらに「本社の事務社員が現場を知る良い機会にもなります」と八嶋さん。社内の交流にも一役買っている。

異動当時、総務の仕事は男性の職域だったという。八嶋美佐緒さんは、同社における女性活躍の先駆者だ

 「好事例はどんどん取り入れ、それが刺激にもなる」と井木社長。さまざまな取組をしている企業への視察も多い。同社の改革が他社にも広がり、業界全体の底上げにもなる。
 同社が2012年に制作した『創業100周年記念誌』には、創業者・井木善吉の言葉が掲載されている。 「目一杯の仕事をさせないこと。余力を残して1日の仕事を了え、明日に備えさす」。 言うのは簡単だが、徹底は難しい。できることから一つずつ。井木組は、時代の動きをいち早く捉え、変化をいとわない。挑戦できる社員を育て、人を大事にする伝統が、経営理念の一つに掲げる「社員の幸」にも現れている。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

現場技術者の事務作業をサポート

効果
現場技術者を本来の業務に注力させるため、現場支援チームを創設。主に現場の作業終了後から始まる、作業日報や提出用の写真アルバム作成等の事務作業を分業する。現場社員の時間外労働が大幅に削減され、現場支援担当者も測量の補助や施工管理など、幅広いスキルを身につけることができるようになった。
取組2

社員のマルチスキル化で全社挙げて現場を支える

効果
分業制をさらに進め、本社で事務を担う社員を登用。現場支援チームをさらにサポートし、現場支援の一端を担う仕組みづくりに着手。より専門的な業務や技術などをマルチに身につけることで、本人のスキルを高めることが狙い。「できること」が増えることで、男性の職域に女性の進出も増えた。
取組3

「6Sパトロール」など、働きやすい職場環境を整備

効果
生産性をより高めるため、時間外労働削減、年次有給休暇の取得率アップに取り組む。本社にはフリーアドレスを導入、現場では6Sパトロールを実施するなど、社員が働きやすい職場づくりを推進することで、社員の安全と幸せを守る。

COMPANY DATA企業データ

地域のファースト・コール・カンパニーを目指す

株式会社井木組

代表取締役社長:井木敏晴
本社:鳥取県東伯郡
従業員数:146名(2021年7月現在)
設立:1912年11月
資本金:9600万円
事業内容:土木一式工事・建築一式工事・とび・土木工事・管工事・舗装工事・港湾工事・造園工事・水道施設工事・内装仕上工事・宅地建物取引・リフォーム事業

経営者略歴

井木敏晴(いぎ・としはる)
1965年鳥取県生まれ。1989年立教大学法学部卒業、佐藤工業株式会社入社。1999年株式会社井木組入社、2006年代表取締役社長就任。2011年東日本大震災発生。国土交通省の要請により、社員を派遣、被災地の排水作業を行う。一般社団法人鳥取県中部建設業協会会長。