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信州ビバレッジ株式会社

業種

製造業

地域

中部

従業員数

100〜300人

File.88

週休3日制でワーク・ライフ・バランスが充実 ―残業時間の大幅削減に成功した信州ビバレッジの場合―

時間外労働の削減

2021.11.29

信州ビバレッジ株式会社

工場には3列のペットボトルライン(大型、小型、新設の天然水)が整う。

 信州ビバレッジ株式会社は、株式会社ナガノトマト松本工場を前身として2010年に発足。現在はキリンビバレッジグループの一員として清涼飲料水を製造している。24時間操業の工場勤務では繁忙期と通常期の働き方が異なり、残業時間は一人当たり年間約400時間に及んでいた。それが現在、就業体制が安定し、年間残業は60時間程度と大幅に削減している。これを可能にしたのは、交替制勤務の社員を対象にした週休3日制度だった。

年間のシフトを安定させ、残業を削減する働き方を模索

 同社の前身・ナガノトマト松本工場では、トマトのフレッシュジュースを製造していたが、製品の特性からトマトの収穫期と、その前後にあたる春から秋頃までの6カ月間は繁忙期、それ以外は通常期となっていた。1年を通じて工場は24時間操業だが、繁忙期と通常期では働き方が異なっていた。

 通常期は1日9時間拘束・8時間労働、4班3交替制で業務にあたるが、繁忙期には毎日残業が3時間ほど発生するため、12時間拘束11時間勤務、3班2交替制という変則的なシフトになった。

 このように半年間は9時間拘束、半年間は12時間拘束というアンバランスな働き方で、年間の残業時間は一人当たり約400時間に及んだ。この働き方は従業員にとっては体力的な負担が大きく、生産性の低下にもつながりかねなかった。

 「アンバランスな働き方ではなく、年間を通して安定した働き方を構築したいという考えは以前からありました」と代表取締役社長の山岸喜一郎さん。

代表取締役社長山岸喜一郎さん。

 繁忙期における従業員の負担を減らすには、ラインにつく要員を増やせばいい。「それではコストアップになってしまいます。また、繁忙期に合わせて人員を増やせば、通常期には人員が余ることになってしまう。ですから、単純に人を増やせばいいというわけにはいきません」(山岸社長)

 繁忙期の変則シフトの問題に加え、通常期の3交替制シフトにも課題が。 「従業員に不評な時間帯があったのです。14時出社~23時退社というシフトです」(山岸社長)

 3交替制では7時30分出社、14時出社、22時45分出社というシフトが敷かれていた。朝、夜の出社なら帰宅してから休息が取りやすいが、14時出社は中途半端な時間帯でなかなか休息したという実感が得られにくい。

 しっかりとした休息が取れ、通常期、繁忙期に左右されることのない安定的な働き方はないだろうか――さまざまな情報を集め、模索した解決策が変形労働時間制を採用し、年間を通して1日12時間拘束・10時間勤務4班2交替制、週休3日制とする案だった。

 この案について労使の話し合いの場が設けられた。信州ビバレッジ労働組合執行委員長小松弘さんは、「12時間拘束は繁忙期に経験していた働き方なので、組合員から特に異議は出なかった」という。

 「それより、残業がなくなることで収入が減るのではといった心配の声が聞かれました。そこで残業代削減分は基本給を引き上げ、賞与で補填するなどして、年収が下がらない賃金体系を会社側との協議で実現していきました」(小松さん)
労使との話し合いに1年をかけ、導入の準備を進めた。

労働組合執行委員長小松弘さん。

快適な休憩室、週休3日制でワーク・ライフ・バランスが充実

 12時間拘束・10時間勤務、週休3日制は2018年1月から導入された。この制度により、7時30分出社~19時30分退社、19時30分出社~7時30分出社の2シフトが組まれ、夜勤明けの休日は2日から3日連続で取れるように。年間の所定休日は169日となり、導入以前より49日増えた。年間の残業時間も、以前は一人当たり約400時間あったのが、60時間ほどと大幅に削減できた。

 製造現場ではシフトメンバーの固定化を行った。これにより、年間を通じて同じメンバーで業務をこなせ、協力しやすく、スキルを伝えやすい環境となった。また、チームワークでスムーズに仕事がこなせるため、安全面も強化されている。

 2021年4月入社、生産本部製造部製造2課に所属する猪瀬奈央貴さんは同社を志望した動機は「週休3日制だった」と話す。

新入社員の猪瀬奈央貴さん。

 「学生時代はスノーボードを趣味にしていて、実は大会にも出場したことがあるんです。それで社会に出ても続けたいと思っていました。週休3日ならスノボを楽しむ時間が充分に取れます。それに平日に休めるので、ゲレンデが混雑する土・日曜日を避けて集中して練習できます。週休3日制が入社を決めた最大の理由といってもいいかもしれません」

 12時間拘束に対しては「アルバイトをしているときも残業などあって長時間労働するときがあったので特に抵抗感はありませんでした」。

 休憩時間がこれまでの1時間から2時間になったことで行ったのが、休憩室の整備だった。
「以前は狭い休憩室がいくつかあったものの、現場から遠かったり、狭かったりで、社員からはゆっくり休める休憩室がほしいという声が上がっていました」と小松さん。

 その休憩室は工場内に設けられている。空調が効き、マッサージチェアやソファが置かれており、ゆったりとくつろげる。防音設備も施され、工場内の騒音は聞こえない。「製造現場はけっこう暑いんです。工場内は冬でも室温30度近くになります。ですから、体を休めるためには快適な環境で過ごせる休憩室が必要でした」(小松さん)

休憩室でくつろぐ新入社員の猪瀬奈央貴さん。体を伸ばしてゆったりと休憩が取れる。
社員の健康維持のため、トレーニングルームも備えた。

 工場勤務の働き方を刷新したのと同時に事務職も働き方を変えた。事務職は、スーパーフレックスタイム制(標準時間8時間 清算期間1ヶ月 年間所定休日120日)が採用されている。かつては11時から15時までのコアタイムを設けていたが、2018年以降、これを撤廃した。
「そのほうが、より柔軟な働き方ができるとの考えからです」と山岸社長。

 コアタイムをなくすことで、社員自身がよりフレキシブルに始業・終業時間を決められる。午後、用事があれば出社を早朝6時にして退社を12時にすることも、反対に午前中に所用を済ませ14時出社~20時退社も可能だ。

 年次有給休暇は20日間あるが、工場勤務に週休3日制を導入した当時はシフトに不慣れなためか、また、休日が大幅に増えたためか、取得率が低下した。

 年次有給休暇を取得しやすくするため、消化しきれなかった年次有給休暇の日数を翌々年以降も繰り越して使える〝積み立て有休″、時間単位で年次有給休暇が取得できる制度を設定するなどして、休暇の取得を社員に働きかけた結果、現在では年次有給休暇取得率は80%に。男性社員の育児休業取得率も向上している。

 働く環境の改善に関しては、労働組合が年に3回、社員にアンケートを実施、満足度を測り、改善すべき点を聞く。課題や問題があれば労使間の協議となる。
休憩室の整備や食堂などの福利厚生施設の改装や新設には社員の意見が大きく反映された。週休3日制、コアタイムを設けないフレックスタイムの導入など働く環境の改善を行った結果、離職率は1.5%と人材の定着にも成功している。

 「当社は従業員のワーク・ライフ・バランスを大切にしている会社です。今後も、さらに働きやすく、満足度の高い環境にすべく、労使協同で取り組んでいきたいと思います」と山岸社長は明言する。

働きやすくなった環境の元で、仕事も充実。

CASE STUDY働き方改革のポイント

取組1

10時間勤務2交替制で週休3日を確保

効果
夜勤明けの休日が3日連続で取得でき、しっかり休息できる。残業時間は年間400時間から60時間に大幅減少。年間所定休日は49日増。従業員の収入は、残業が減ることで収入減にならないよう、大幅なベースアップで補填した。
取組2

休憩室を工場内に設けて整備

効果
工場内は室温が高く、騒音もかなりある。2時間の休憩を快適に過ごせるようにと休憩室を広くし、防音を施し空調を整えた。マッサージチェアやトレーニングマシンも備え、従業員がリフレッシュして現場に戻れるようになった。
取組3

フレックスタイム制からコアタイムを撤廃

効果
事務職で採用されていたフレックスタイム制からコアタイムを無くし、より柔軟な働き方を可能にした。働く環境が整ったことで離職率は1.5%。人材の定着に成功している。
取組4

労働組合との協力で施策を実現

効果
これらの施策は労働組合との協力から生まれたもの。働く環境の改善に関して、労働組合が年に3回、社員にアンケートを実施。満足度や改善すべき点を聞き、課題や問題があれば労使間で協議を行う。

COMPANY DATA企業データ

信州ビバレッジ株式会社

代表取締役社長:山岸喜一郎
本社:長野県松本市
従業員数:164名
設立:2010年
資本金:1000万円
事業内容:清涼飲料水製造

経営者略歴

山岸喜一郎(やまぎし・きいちろう) 1972年神奈川県平塚市生まれ。大学を卒業後、キリンビール㈱に技術職として入社。国内や海外における酒類・飲料事業の生産管理業務や、キリンホールディングス㈱にてパッケージ関連の研究開発業務を経験。2021年3月キリンビバレッジ㈱グループの信州ビバレッジ㈱代表取締役社長に就任。