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株式会社菊正塗装店
建設業
関東
10〜29人
File.99
現場も事務も全ての社員がテレワーク可能に ―コロナ禍を機に改革が進んだ菊正塗装店の場合―
2022.01.24
「菊正塗装店」の創業は1910(明治43)年。大手ゼネコンの専門工事、官公庁発注の公共工事、原子力発電所内の保全工事の他、物流倉庫や郊外型ホームセンターのリニューアル等、民間企業直接発注など、比較的大規模な施設の塗装工事を主に111年の歴史を重ねる老舗である。
日々の仕事の効率化やペーパーレス化は、5代目を継ぐべく鈴木大介専務取締役が入社した6年前から徐々に始まった。全員がテレワーク可能な体制まで整ったのは、コロナ禍が機である。
ペーパーレス、リモート化は6年前から
「菊正塗装店」は茨城県水戸市の本社と、東海原子力発電所内に設置する東海作業所の2か所を拠点とする企業だ。従業員は19名。受注と現場管理を主業務とし、現在、施工は100%外注だが、一級塗装技能士をはじめ、1級建築・土木施工管理技士など多くの有資格者を擁する。
鈴木専務は入社するまで東京で暮らし、友人と共に、海外の古着や雑貨、ペルシャ絨毯などの買付け、卸売り、EC販売という全く畑違いの仕事をしていた。その前はバックパッカーとして世界を歩いていたというユニークな経歴。
「現社長も私も次男なので、継ぐことになるとは全然考えていなかった」と鈴木専務。
いざ入社してみて驚く。事務机はどれも紙の山。現場管理を担う工事部社員は、現場から事務所に戻るとハンコを押さなければならない大量の書類と格闘する。当然、残業時間も増えていく。取引先のゼネコンなどではペーパーレス化の流れはあったのだが、最前線では旧態依然のままだった。
「建設業はいろいろ遅れていたのだと思います。変わる必要がなかったんですね」
このままではあまりにも効率が悪い。工事部からは現場へ直行直帰したいという声もあった。そこで鈴木専務はさまざまなツールを検討。膨大な紙書類を電子化し、セキュリティ対策を講じた社内ポータルを導入した。工事部社員は、会社が貸与したノートPCとスマートフォンを使って、車の中などでも仕事ができるようにした。不要な移動や出社の低減、労務の効率化を進めようと考えたのだ。
しかし、出社=善であるという根強い習慣を払拭するのは難しく、なかなか定着しなかった。
「6年前当時は社員17名中7名が60歳以上。ITリテラシーに関しても個人差が大きく、全員の意識を一気に変える事は非常に高いハードルでした。」
緊急事態宣言によりシステム整備を促進
意識が変わったきっかけは、新型コロナウイルス蔓延による緊急事態宣言発出だ。政府はテレワークを推奨し、社員皆も“集まらないこと”の必要性を感じた。鈴木専務は、一気に取り組みを進めていった。
工事部だけでなく、事務職全員にもノートPCとスマートフォンを貸与。スマートフォンのデザリングとVPN接続によって、どこにいても会社のサーバに安全にアクセスでき、経理データなどのセキュリティ対策も万全だ。タイムカードの打刻もスマートフォンアプリを利用。GPSにより始業時と終業時の位置情報もわかる仕組みだ。全社員のスケジュールも前述のグループウェアによって可視化できる。誰がどういう予定に沿って動いているか、いつでも全員が確認できる。タイムカードもグループウェアも月額300~500円/1ID程度と非常に安価で気軽に利用できる。
「私は仕事だけでなく旅行や、子供の病院などのプライベートも書き込んでしまっています。顔を合わせなくても、そういった人間味がある社風にしたいですから(笑)」と鈴木専務。
またスマートフォンのグループチャット機能を使って、仕事上の相談や進捗などの情報も皆で共有する。さらに営業会議、入札会議、工事情報会議などはオンライン上でのリモート会議に。今はまだ鈴木専務自身が声かけする場合のほかはリアルで集まることも多いが、いずれは社員それぞれが必要に応じて招集できるようにするのが目標だ。
こうした対策によって、今では現場監督職務の社員はほとんど出社の必要がなくなった。事務職社員も交替制で出社する。半日出社して、残りの仕事は自宅でという働き方もできる。実際、取材に訪れた平日午後、社内にいたのは鈴木専務の他は事務1名、工事部1名だけだった。
出社していた軍地広美さんはパート時代を含めて10年の在籍。経理担当である。
「緊急事態宣言発出から、ノートPCとスマートフォンの活用まで、とても速かったですね。経理は今、2人が交替で在宅ワークしています。会社からの指示などもメールで来ますし、帳簿も電子化されているので何も問題はありません」と話す。
スマートフォンアプリのタイムカードを使い、時間管理もしっかりできる。また、在宅での作業への移行は、出社しないと出来ない作業は何かということを見直す契機にもなったそうだ。
「不要だった仕事はずいぶん整理できました。ネット環境にはスマートフォン経由でつながるので、会社や自宅以外でも仕事ができそうです」と軍地さんは言う。
教育や人事の制度もさらに拡充を目指す
今、同社では働き方改革に向けた次の手を進めようとしている。
「テレワークによってあぶり出される課題も多々ありました。どこでも仕事ができるぶん、働き方の密度に差が出るのも事実です。そこで、各自の仕事をきちんと評価できる仕組みが必要と感じています」と鈴木専務。
業務をリーダー、サブリーダー、マネジメントなどに細分化し、それぞれの役割を明確化していこうという取り組みだ。役割に応じて、できることややるべきこと、取得資格などを考慮し、自己申告と上司の判断を通して評価する。これは人材育成へのステップでもあり、2022年度中の整備を目指す。
施工についても内製化できるよう考え、今年度は塗装職人の採用を計画している。未経験者は外部研修施設などの活用も進めていく。ここ数年来積極的に採用も進め、6年前までは社員の半数以上が60代であったのが、現在では平均年齢49歳に。今後は一層、定期的な新卒採用により若手の育成に励む方針だ。
2021年度からは、厚生労働省が推進する「育MENプロジェクト」に賛同し、男性社員の育休取得に積極的に取り組む「イクメン企業」を宣言した。同社にも育休制度は整備されており、当然に男性社員も取得できるのだが、これまではほぼ利用されていなかった。これを周知し、取りやすい環境にしようという試みだ。最近、子供が誕生した男性社員は3人。うち一人は鈴木専務自身だ。もちろん育休の取得を予定している。
「2021年度は基盤改良期2年度。6年前から様子を見つつ進めてきた施策です。今はとにかく多くの人々に気持ちよく働いてもらえる会社にしようと考えています」と鈴木専務。「今のうちにしっかり整備しておけば、やがて規模が拡大してもスムーズに行くはずです」
コロナ禍を機とした働き方改革は、今後もさらに進んでいく。
CASE STUDY働き方改革のポイント
ノートPCとスマートフォンの活用
- 効果
- 書類を電子化し、誰でもどこにいてもセキュリティ対策万全の上でサーバにアクセスできる環境ができた。現場管理だけでなく事務職社員も出社せずとも十分な仕事ができるようになった。
情報もスケジュールも全員で共有
- 効果
- チャット、リモート会議、スケジュール管理アプリなどの活用で、リアルで顔を合わせなくても社員皆が情報を共有できる。温かみを感じさせる書き込みで、風通しのよい雰囲気を創っている。
リモートでの人材育成の強化
- 効果
- スケジュール管理アプリやグループウエアの回覧板を通して、新人がどこで何を学ぶべきかを周知。さらに2022年度中には業務の細分化や人材評価のシステムの確立を図る予定。
COMPANY DATA企業データ
100年の実績と確かな技術で、まちを彩る
株式会社菊正塗装店
株式会社菊正塗装店
代表取締役/鈴木 章
本社:茨城県水戸市
従業員数:19人
設立:1908年
資本金:3,000万円
事業内容:建築物その他一般塗装/原子力発電、火力発電関係施設の塗装/鉄骨、鉄塔、橋梁、タンク等の塗装
経営者略歴
代表取締役/鈴木 章(すずき・あきら)
創業者・齋藤菊正の孫。1983年、専務を経て、2002年に4代目社長に就任。2008年には塗装業界で最初に国際規格「ISO 9001:2000」の認証を受け、徹底した安全管理と品質管理に力を入れている。